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ウィメンズカウンセリング京都        ☆スタッフblog

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ウィメンズカウンセリング京都20周年記念イベント 報告

「20年の実践報告とこれから・・・」

 ウィメンズカウンセリング京都(以下WCK)は、昨年秋に設立20年を迎えた。これまでの実践を振り返り、今後の活動を展望するために、2月11日、ウィングス京都において開催した20周年記念イベント「20年間のフェミニストカウンセリング実践 なにができて、なにができなかったのか?」について報告する。

◆ フェミニストカウンセリングの根本理念
        ――ジェンダーの視点に立つカウンセリングとは

 はじめに、WCK代表の井上摩耶子が、カウンセラーとしての歩み―障害児など子ども支援の現場で心理臨床をはじめたが、大学で学んだ伝統的な心理学が現場では何の役にも立たなかったこと、伝統的なカウンセリングにはジェンダーの視点がないことがずっと不満だった―を振り返り、河野喜代美さんとの出会いによってフェミニストカウンセラーに転向した経緯を語った後に、フェミニストカウンセリングについて話をした。
 フェミニストカウンセリングの根本理念は、「個人的な問題は政治的な問題である(personal is political)」であり、その始まりは70年代アメリカのフェミニズム運動を草の根で支えたCR(意識覚醒)グループである。女性たちは、家庭や職場での自分の経験を語り合うことで、自分たちが抱える困難が、自分の弱さではなく、性差別による社会的抑圧によって苦しめられていることが原因だと気づいた。そして、グループの中でうつ症状などに苦しんだり、グループに参加するのが難しい人のためにフェミニストカウンセリングが生まれ、発展した。
 フェミニストカウンセリングは、彼女たちを悩ませてきたさまざまな「症状」も、性差別社会の中での適応的な生き延び策だったと捉え、女性をエンパワーした。また、あらゆる価値から自由な心理療法実践は不可能であるとし、男性中心の価値観に基づいて、男性治療者によって構築された「客観中立的」「科学的」言説を批判。フェミニスト的価値をクライエントと共有し、一緒に女性が生き難い社会を変えていこうと呼びかけた。井上は、この「中立性」に疑問を呈するフェミニストカウンセリングの視点に基づいて、性暴力被害者の裁判支援をする中で、作成した意見書に対して、「中立性に欠ける」という批判に対抗したことを報告した。さらに、カウンセリングの中で行っている心理教育が、フェミニスト的価値をクライエントと共有するための有効なものであることにも言及した。
 フェミストカウンセリングは、また、クライエント―カウンセラー関係に内在していた力の不均衡も問題とする。フェミニストカウンセラーは、両者の対等性の構築を目指し、クライエントを「有能で、自分自身の経験についての最上の専門家である」と捉え、「無知(not-knowing)の姿勢」でクライエントの話を聴くのである。
 そして、この「無知の姿勢」が、近年注目を集めているナラティブ・アプローチの実践であったと確信した井上によって、フェミニスト・ナラティブアプローチとして実践され、結実していることが具体例を交えて語られた。「無知であることは、カウンセラーが重ねてきた経験と理解がたえず新しい解釈によって更新されることを意味している」「それにより『いまだ語られなかった物語』が語られる余地が生まれ、人生は何回も著述され直し、改訂版を出すことが可能になる」。クライエントとの共同作業の醍醐味が、自分にカウンセリングを続けさせてきたと語る大先輩の話はまさに圧巻であった。

◆ フェミニストカウンセリングができなかったこと、これからの課題
  おわりに、フェミニストカウンセリングの課題として、いくつかの問題提起があった。まず、「フェミニストカウンセリングを社会的、学術的にアピールする活動に力を入れること」である。井上は、昨年、日本トラウマティックストレス学会、日本子ども虐待防止学会において、フェミニストカウンセリング実践について報告した際に、フェミニストカウンセリングへの興味が高まっていると感じた。「伝統的心理学、精神医学を批判するだけではなく、そのいいところを学び、力をつけてフェミニストカウンセリングの実践、理論を外部に向けてアピールしていく活動が立ち遅れている。批判されることによってフェミニストカウンセリングは発展することができるし、みんなに知ってもらうことができる。みんなどんどんやって欲しい」と述べた。後輩カウンセラーへの叱咤激励である。
 次に、いまだにジェンダー平等が実現していない中で、「フェミニズム」という言葉を「もう古い」と感じたり、違和感をもつ若い女性たちにフェミニストカウンセリングをアピールすることも重要な課題にあげた。そして、男性性暴力被害者支援や男性加害者の更生カウンセリングにかかわった経験から、ジェンダー問題に取り組んでいる男性研究者たちとの積極的な共同作業をしていくことについても取り上げ、男性加害者更生プログラムに対して、フェミニストカウンセリングとして働きかけることは、女性性暴力被害者のアドボケイト(代弁・擁護)活動としても重要だと述べた。

◆ グループアプローチ
 次に小松明子が、WCKのグループアプローチ実践について報告した。WCKで開催してきた講座、グループトレーニング、当事者のためのグループなどについて紹介し、その基盤となるCR(意識覚醒)グループについて話をした。CRは、女性が自分自身の経験、それに伴う自分自身の感情や欲求を、自由に安全に率直に表明する場を提供する場、女性の経験を排除したり、軽んじることのない場を提供するものであること、だからこそ、自分自身の経験をこれまでとは違った視点で見直し、捉えなおしていくこと、社会の中に存在する女性差別を可視化することを可能にすることを示した。CRでお互いの経験を分かち合うことによって、女性が女性であることを肯定できる、尊敬できる人、モデルとなり得る人と出会うことで、男性中心社会での抑圧的状況を打ち破るチャンスになることは、さまざまなCRを経験した私自身の実感でもある。
 そして、CR的語り合いに基盤をおく、フェミニストグループアプローチが、ジェンダーの視点の導入によって、女性のエンパワメントを目指すために、「個人の経験を社会的な文脈のなかに位置づけ捉え直す」試みの構成要素を示し、WCKが開設当初から開設してきた、自己主張・自己尊重トレーニングの内容を紹介した。
グループトレーニングは、性差別をはじめとして、いろいろな抑圧をはねのけようとしている人間同士の共同作業から生まれるエネルギーに満ちた場である。そこで取り上げられる、女性役割と自分らしさの葛藤、他者との境界線、怒りといったネガティブな感情に対応する困難、女性が生活の中で直面する「性の二重基準(ダブルスタンダード)」「女性に対する二重拘束(ダブルバインド)」といったトピックは、多くの女性と共有することができる。男性優位社会の性差別的構造は歴然として存在しているのだ。
 最後に、今後の課題として、若年層、高齢層向けのプログラム、女性間のさまざまな格差、性の多様性に焦点をあてたプログラム、そして、性暴力にかかわる一般向けプログラム・当事者のための回復プログラムの開発をあげた。

◆ DV被害者支援
 竹之下雅代は、ドメスティックバイオレンス(以下DVとする)被害者支援について報告した。DVにかかわるこれまでのWCKの発信を紹介した後、フェミニストカウンセリングの視点に立ったDV被害者支援の特徴として、「DVを個人の問題ではなく、ジェンダー格差を利用した支配行動として捉える」「力の格差にセンシティブになる」「ドメスティックな場に不可視化されている暴力を明白にする」「支援関係を加害者との関係の再演にしない」ことが重要であると示した。そして、DV被害者の心理・社会的回復に向けてのサポート実践を具体的に報告した。
 DV被害からの回復には、被害を受けた当事者への理解、中長期的な心身のケアが不可欠である。それは、「無知の姿勢」をもって徹底的に聴く、ジェンダーの視点で話し合う、心身症状の正常化のための心理教育を実践することによる「支援関係における関係性の構築」が基盤となる。トラウマカウンセリングは、夫の支配からの離脱を促し、DVという自己の尊厳の剥奪・命の危機によって生じているさまざまなトラウマ症状のコントロール、「人生ストーリーの再構築」につなげる。暴力によって壊された「自己・他者・社会への信頼」の回復は、グループアプローチを含めた有効な語りの場の提供―奪われた“声”を取り戻すことによって実現することができる。
 竹之下は、自らのカウンセリング実践の中で、虐待加害を責められる女性、犯罪者となった女性、そして少なくない女性が抱えている心身の問題の背景にDV被害があることを示した。そして、現在力を入れている、子ども時代にDV家庭で育った女性たちの困難に目を向けたグループ実践について、当事者の声を紹介しながら報告した。当事者にとってのグループの重要性、かけがえなさが伝わってくる報告であった。
DV認知が社会的に広まった現在においても、DV家庭で育った子どもたちへの理解・支援は不十分であり、「福祉(特に児童相談所)・教育分野との連携」とともに、「性虐待の非加害親への支援といった、被虐待の子どもにとって希少な存在である母親への支援」「加害者プログラムへの発信」など、この分野でも課題が山積している。

◆ 裁判支援とアドボケイト(代弁・擁護活動)
 フェミニストカウンセリング実践は、伝統的なカウンセリングとは違い、カウンセリングルームで心理的支援をするだけのものではない。性暴力被害者やDV被害者に対するアドボケイト(代弁・擁護活動)という活動を福岡ともみが報告した。
 フェミニストカウンセリングのアドボケイトは、男性中心社会において、権利表明を困難にさせられ権利を奪われている人に代わって、ジェンダーの視点に立ち、当事者の権利を代弁・擁護する活動である。具体的には、「自分の権利回復を裁判に訴えた性暴力被害やDV被害の当事者のために意見書を作成する」「裁判の傍聴活動や証人として裁判に出廷する」「拘留中や受刑中の面会、文通」「関係機関への同行支援・紹介状の作成」「二次被害を与えた、もしくは無理解な対応を行った機関への異議申し立て」「家族などとの関係調整」といった多様な活動を指す。いずれも、権利擁護を求める当事者にとって不可欠な、しかし、著しく不足している活動であり、支援関係はそのかたちや距離の変化はあっても「一生ものの交流である」。
 福岡は、裁判支援でなぜフェミニストカウンセリング・アドボケイトが必要かを、実際の支援活動を報告することによって明らかにした。DV加害者である夫を殺害した女性たちがおかれていた深刻な状況、被害者に共通する追い詰められた心理状態に対する、警察官や検察官、裁判官といった司法関係者の無理解と、男性中心主義社会におけるジェンダー規範に基づく偏見による攻撃が、どのようなものであったかが示された。裁判の場では、DV家庭で生きてきた子どもたちへの深刻な影響もないものとされた。ジェンダーの視点を持ち、当事者主体の対等な関係を意識する支援者がいなければ、当事者は、中立性の名のもとに暴力をふるう国家権力によって、さらに尊厳を傷つけられてしまうのだ。
 今後のアドボケイト活動の課題として、「フェミニストカウンセリングの視点に立つ心理教育をまとめる」「ソーシャルワークとの違いを明確にする」「男女共同参画の視点に立つ多機関ネットワークの形成」が展望された。

◆ 性暴力被害者支援(京都SARAのスタート)
 最後に、昨年8月に開設した、京都性暴力被害者ワンストップ相談支援センター「京都SARA」(以下SARAとする)について、その中心的な役割を担う周藤由美子が報告した。
SARAの支援内容は、「電話と来所による相談(現在は毎日10時から20時、いずれは24時間体制を目指す)」「関係機関への同行支援」「機関連携における支援のコーディネート」「産婦人科医療、カウンセリングへの公費負担(警察の公費負担制度対象外の人が対象)」「証拠保管」と多岐にわたっている。いずれも性暴力被害者の多様なニーズに応えるものである。SARAは、大阪や滋賀、兵庫が実践している「病院拠点型」ではなく、「ネットワーク型」であるところにもその特徴がある。連携機関は、医療機関、警察、弁護士会・法テラス、京都犯罪被害者支援センター、カウンセリング機関・団体、家庭支援総合センター(府配偶者暴力相談支援センタ―)、児童相談所、市町村といったところで、連携だけとっても、高い専門性を要求される、フェミニストカウンセリングのアドボケイト理念が最大限生かされる場であるといえる。 
そして、行政と民間のネットワークによる、ジェンダーの視点による支援員の養成、フェミニストカウンセラーだけではなく、福祉職や看護職、市民活動家といった他分野の専門家を含めた多様な支援員による支援、幅広い支援対象、警察に届けない被害者への公費負担、そして、地域全体の意識の底上げをはかるというのがSARAの特徴であることが示された。
また、フェミニストカウンセリングルームが運営を任されることで、「早期のジェンダーの視点による心理教育が可能になる」「さまざまな場面でのアドボケイトが可能になる」「(アドボケイト活動とのスムーズな連携で)フェミニストカウンセリングによって回復まで支援できる」ことは、被害当事者にとっては大きな意味を持つ。
WCKが開設される以前から、民間団体のメンバーとして性暴力被害者へのアドボケイト活動を実践してきた周藤は、「SARAができたことで、被害直後やそれほど時間がたっていない人の相談を受けられるようになった。早期にジェンダーの視点での心理教育を行うことで、被害者が自分を責めることを防止でき、ケアが早くできる。それが本当にうれしい」と語った。SARAの存在を一人でも多くの当事者に知ってもらいたいと思った。
SARAの活動においても、「人材育成」「自助グループの支援」「他分野へのフェミニストカウンセリングの浸透」とともに、「全国規模の支援体制を作る」「包括的な性暴力をめぐる法制度の整備」など、今後の課題は多い。

 多くの方々のご支援のおかげでWCKは20年活動を続けることができた。改めて感謝の気持ちでいっぱいである。かなり駆け足の報告だったが、参加していただいた方にWCKがどのような実践を行っているか具体的に知る、理解を深める機会にしていただけたのではないかと思う。
私自身、今回発表を担当したことで、新しいことに挑戦しようとしていた当時の気持ちを思い起こすことができた。他のスタッフもそれぞれフェミニストカウンセリングに出会うに至るバックグラウンドを持っている。発表の機会のなかった彼女たちもこの20年間を振り返り、今後に思いをはせていたと思う。最近、新しいスタッフも加入したので、きっと新しい風も吹くだろう。WCKにとどまらず、日本のフェミニストカウンセリング実践が、次世代にも引き継がれていくことを願ってやまない。 (小松明子)

※WCKニュース第78号より転載

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by WCK-News | 2016-04-30 00:00 | WCK公開講座報告

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