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狂気の世界遺産

 今年の夏、ポーランドのアウシュビッツを訪れた。出発前はあれこれと考えることもなく、見識を広げられたらという程度の気持ちだった。

 最初に訪れた第一収容所は博物館になっている。門に掲げられた「働けば自由になれる」という標語の下をくぐって中に入った。とたんに息がしにくい。この施設はもともとポーランドの刑務所として作られたレンガつくりの頑丈な建物で、ソ連軍が侵攻してきたときドイツ軍に破壊されずに残ったものだ。思ったよりもこじんまりとしている。

 収容者の遺品が山積みにされた部屋に入ると、なによりもここでとんでもない数の人間が殺されていったのだと実感できる。切取られた髪の毛、鞄、服、生活雑貨・・・・。涙が止まらない。子どもの靴だけが集められた部屋でとうとう、私は嗚咽しないではいられなくなった。これらの靴は、死の直前までくたくたになった真っ黒に汚れた足に履いてあったものだ。どこどこのだれだれと尊く存在していた子どもたちのものなのだ。本当にものすごい数があって、圧倒され続けた。日ごろ、子どもと関わる仕事をしていることもあってよけいにしんどかった。

 その他にも、銃殺の壁、立ち牢、ガスチェンバーなど。そのまま残された施設ならではの生々しさが、そのたびに胸にせまってきた。

 映画でアウシュビッツ収容所を描いたものをいくつか観たことがある。そこで表される施設は、主に第二収容所であることをはじめて知った。そこは、先の施設から数キロ離れたところにあった。鉄道の引込み線が「死の門」をくぐって中に続いていく。ヨーロッパ各地から貨物列車にぎゅうぎゅうにつめこまれて運ばれてきた収容者たちは、その先のプラットホームで、ガス室送りと強制労働とに選別される。引込み線の行き止まりになったところの両脇に、一度に二千人を殺すことのできる大型のガス室が建っていた。これらのガス室は証拠隠滅のために破壊されたが、その残骸はそのままにされている。

 映像で観て頭に残っている広大な収容所の風景はここにあった。男性が収容されていた木造の建物群は焼き払われて、各建物の煙突だけがずらっと規則正しく並んでいる。見学者のために再現された一画を見て回ることができる。ポーランド人のガイドさんがここでの悲惨な生活について詳しく説明してくれる。この話が、またすごい。そこまで人間性を否定された生活のなか、生き延びてきた人がいることが信じられないぐらいだ。

 私達のバスの集合時間まではわずかだった。ガス室まで歩くのは無理に思えた。それでも、私は引き込まれるように、引込み線の先端まで歩いていった。そこにある鎮魂のためのモニュメントとガス室の残骸。とても天気のいい日で、じりじりと照りつけてくる。とても暑かった。

 数百メーターの距離を線路沿いに急ぎ足で歩きながら、私はlここで働いていたドイツ軍の気持ちになってみようと考えた。彼等には列車から降りてくる大勢の人たちが人間には見えていなかっただろう。自分達が搾取する品物を身につけた動物?虫?。ひとかけらの温情なども持ってはできなかっただろう。人間に値するのは、自分達だけであって他にはない。それは個人の狂気ではなく、プロパガンダや組織のなかに抜け道のないように組み込まれた狂気。個人の感情は、重い重いふたで封印してあったに違いない。

 その感覚を想像しているうちに、線路の行き止まりに着いた。そこはやはり特別な場所で、私には空気がピリピリと肌をさすように感じられた。モニュメントの前で手を合わせ、そこにいた人に頼んでガス室を背景に写真をとってもらった。私のおびえた顔と緊張して持ち上がった肩、後ろのガス室とまわりの森は神妙な雰囲気が漂っている印象的な写真が手元にある。

 最初の施設内を歩いていたときに、目の前にぱらりと一枚のポプラの葉っぱが落ちた。今でも手帳に挟んであって、時々思い出す。表現するのはおっくうだし、思い出すのもしんどいけど、何か記録を残しておきたくって投稿した。ぜひ、機会があったら訪れて欲しい。あんな気持ちになった場所は初めてだった。もう一度訪れて、有名な唯一の日本人ガイドさんの話が聞いてみたいと思っている。その時は時間に余裕をもって、ゆっくりと祈ってみたい。 (ひ)
by wck-news | 2006-09-04 23:45 | 日々雑感

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