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カテゴリ:知花さんの小説『想い出』( 11 )

いよいよ、最終回です!

☆初めての方は、こちらもあわせてお読みくださいね。
⇒⇒⇒「上村知花さんの小説連載のご挨拶(井上摩耶子)」
⇒⇒⇒「上村知花さんのエッセイ連載のご挨拶(井上摩耶子)」
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「露希ちゃん、退院おめでとー」
芹佳が退院祝いにと小さな花束を持ってきた。
「ありがとー。あー、でもどうせなら食べ物がよかったな」
「言うと思った(笑)」
そう言って芹佳が思わず吹き出した瞬間。
「露希!」
威勢のいいというか元気な声が聞こえてきた。ん? ?誰? 声はすれども姿は見えず。
「ここだよ!」
声のする方へ体を向けるとそこにはあの生意気な少女が睨みつけるように立ってい
た。
「ん」
都絆菜が無愛想に小さな箱を押し付けてくる。
「なにこれ…?」
わけもわからずその箱を持て余し突っ立っていると、都絆菜は驚きの言葉を口にし
た。
「…退院祝いだよ」
変わらず都絆菜はふて腐れたようにそっぽを向いている。
「え!」
…渡す相手間違ってない?
「一応だよ? 別に露希のこと好きじゃなかったけど、一応入院仲間だし…。これだっ
てチーコの退院祝い買うついでに買ったんだからね! 一番安いヤツだよ!」
「さいでっか…」
はいこれ、いつもの都絆菜だ。全く可愛げないな。いや、都絆菜らしいけど。
「都絆菜ちゃん、嘘はだめだよ? ☆」
とそこへかわいい笑顔をした結理恵が現れた。ところで嘘ってなんのことだろ?
「あのねー、露希お姉ちゃん。都絆菜ちゃん、こんなこと言ってるけどほんとは結構
悩んでたんだよー。なに買うか」
「ゆ、結理恵! なに馬鹿なこと…!」
慌てふためき、必死になって結理恵を黙らせようとする都絆菜。
「しかも全然安くないしね。それ、二番目に高いヤツなんだよ」
「へぇー」
都絆菜ってば可愛いとこあるじゃん。これは今後からかいたくなるなぁ。
「そ、そんなことないよ。だってあたし、露希が退院して嬉しいし。今だってめちゃ
くちゃ清々してるもん! …だから、露希はチーコのおまけなの!」
えっ。最終的におまけ扱いですか、わたしは。そんな風に思われてたのか…。
「はいはい」
あんまり突っ込むとまたふて腐れるからと、ここは大人の威厳(笑)で軽く流す。
「ほんとにおまけなんだからねっ!」
そう言い捨て、すぐに都絆菜は退散した。…ほんと都絆菜って面白いなぁ。

続きはこちら!
by WCK-News | 2013-08-06 00:00 | 知花さんの小説『想い出』
「あ、それ。でもね、嘘ついても、どの道チーコちゃんは退院するでしょ? だったら嘘ついてもしょうがないじゃない。…ってことに、さっき気付いたのよ。」
「そーそー!わたしも、さっきそれに気付いたの。」
わ…忘れてた…。そっか。どんな嘘をついても、やっぱりチーコちゃんは退院しちゃうんだ…。
「…でも!本当のことを話すよりも、2人を傷付けない良い方法があるよ!きっと!ほら、例えば…」
結局、わたしはどうしたいんだろう。本当のことを言うべきなの? それとも、嘘をつく方がいいの?
「例えば?」
露希ちゃんと希美花ちゃんが声を揃えてわたしに訊ねる。
「えっと…あの…その…。」
「ほら~。だから言ったじゃん。見つからないでしょ?」
「…うん…」
「やっぱり、どんな時でも嘘はついちゃいけないんだよ。結局、正直が1番ってことだよね!」
ほんとにね。今日、それを思い知ったわたしでした…。

…でも、そんなに嘘っていけないことかな。だめなことかな。真実を話したら、相手が傷付くことが分かっているんだから、時には嘘をつくことも必要なんじゃないのかな。
わたしはそう思ったけれど、結理恵ちゃんに真実を話す気満々で、緊張して心の準備をしている2人にそんなことは言えなくて、その言葉は自分の胸にしまっておくことにしました…(あとでふと思ったんだけど、心の準備って聞く相手がするもんだよね…。間違えちゃった!)。



「あ! そう言えば!」
突然露希ちゃんが大声をあげた。
「なーに? 露希ちゃん。予告もなしに大声出さないでよ…。」
つい肩が震えちゃったじゃない。
「いや、予告ができるくらいなら大声とか出さないし…。」
たしかに。正論ですね。
「それもそうか…」
わたしが納得したことに、満足の笑みを浮かべる露希ちゃん。
「…って、そうじゃなくて!」
「じゃ、どうなの?」
「銅だよ!…だーかーらー! なにふざけてんだ、わたし~!」
…。今の露希ちゃん、なにがしたかったの? 『銅だよ!』ってなに? なんなの!? ギャグ!?どこかに笑うところがあったの!? …わたしは、今頃後悔しました。『どうなの?』なんて聞かなきゃよかった…。あああああ…。また話がズレていく…。
「それにしても、結理恵ちゃん、なかなか来ないわねー。」
希美花ちゃんの一言で、露希ちゃんは元に戻った。希美花ちゃん、感謝!
「そうそう。さっきからそのこと言おうと思ってたの。あのさ、さっき思い出したんだけど、結理恵、ここに来る気ないらしいよ?」
「ええ~!?」
「嘘~!!!!!」
わたしの言葉に2人(芹佳と希美花ちゃん)はパニック。
「な、な、な~!てことは、もうわたし達に愛想が尽きて、チーコちゃんのことを都絆菜ちゃんに話しに行っちゃったの~!?」
こっちは芹佳。
「それか待ちくたびれたとか!? どっちにしろ大変じゃない!急いで止めなきゃ!」
こっちは希美花ちゃん。
「馬鹿!なに言ってんの! 待ってよ!てか落ち着いてっ!」
え…?露希ちゃんの言葉を聞いて、わたしは正気に戻った。もちろん、『落ち着いて!』と言われて落ち着いたわけではない。いつもふざけている露希ちゃんが、今回は『餅ついて!』じゃなく、『落ち着いて!』と言ったからだ。嬉しい!露希ちゃんも、真面目に止めようと思ってくれたんだ! 感激~!
わたしは、その喜びで慌てるのをおさまれた。
「あ、間違えた。餅ついて!だった」
…所詮、露希ちゃんは露希ちゃんか…。落胆しました。
「それはそうと、結理恵、ここに来ないらしいよ?自分が来たら話し合いの邪魔になるから、わたし達が来るのを待ってるって言ってた。」
「露希ちゃんてば! それを早く言ってよ~」
「…じゃ、今から行く?」
「うん!いいね!そうしよう! 今すぐ行こう!」

「結理恵!」
「…露希お姉ちゃん…と、えと…芹佳さん?」
偉い! 結理恵ちゃん、わたしのこと、さん付けで呼んでる!さすが!ちなみに希美花ちゃんは、『仕事です!』と婦長さんに言われて仕方なく仕事に戻った。
「長い間待たせちゃったけど…今から話すよ。えーと…都絆菜は?都絆菜も呼んで来る?」
「うんっ。今、都絆菜ちゃん、おトイレに行ってるの。呼んで来るね!」
ほんと可愛いなぁ…。結理恵ちゃん。素直で、無邪気で…。

「お待たせ!呼んで来たよ!」
しばらくして、結理恵ちゃんが帰って来た。隣には都絆菜ちゃんもいる。けれど…ムスッとしている。
「どーしたのさー、都絆菜ー。そんな顔してたら幸せが飛んでっちゃうよー。」
「…あたし、露希、嫌いだもん。」
ああ…そっか。露希ちゃん、都絆菜ちゃんの意見に反対してるもんね。そして、都絆菜ちゃんは真相を知らないんだもんね。
「ねぇ、都絆菜ちゃん。ちょっと聞いて。露希ちゃんはね、都絆菜ちゃんにいじわるしてるんじゃないの。ちゃんとした理由(わけ)があるの。」
「理由?」
都絆菜ちゃんがびっくりして聞き返すと、露希ちゃんが一歩前に出て話し始めた。
「そうそう。単刀直入に言います! 結理恵はもう知ってるかもだけど、チーコは14日に退院するの。つまり、いなくなっちゃうの。」
「え…。14日?じゃあ…じゃあ、誕生月パーティーできないじゃん…」
俯く都絆菜ちゃん。結理恵ちゃんも、悲しそうだった。
「そっか…。だから露希、あたしの案に反対したんだ…」
「…うん」
「そっか。退院するんだ。寂しいな…」
「あのね、都絆菜ちゃん。たしかにチーコちゃんはいなくなっちゃうけど、それは嬉しいことなんだよ。悪いヤツをやっつけたんだから!」
「…病気が治ったんでしょ?」
冷たい目で見る都絆菜ちゃん。
「…はい、その通りです」
がーん。知ってるのかぁ。小学生も分かってるんだなぁ。…わたし、なんか恥かいた…?
「…そのくらい知ってるよ。あたし、もう子供じゃないんだからね」
…子供じゃない…か…。たしかにわたしも子供扱いされるのは嫌だった。
「やだよぉ…。ちーちゃんがいなくなるなんてやだよぉ」
泣き出す結理恵ちゃん。
「なにさ!結理恵、こんなので泣くなんて情けない! あたしは全然悲しくなんかないんだから!」
「…都絆菜。素直になんなよ」
露希ちゃんの一言で、都絆菜ちゃんの顔が歪んだ。泣くのを我慢している。
「露希の馬鹿っ!」
そう言って、都絆菜ちゃんは病室を飛び出していった。
「都絆菜ちゃぁん…待ってぇ…」
結理恵ちゃんも後を追って出て行った。
「…だよね。やっぱりそうなるよね」
しばらくの沈黙の後、口を開いたのは露希ちゃんだった。
「そりゃ泣くよね。友達がいなくなるんだもん。都絆菜ちゃんも、最後は半泣きだったしね」
「ほんと。…都絆菜も最後には素直になってくれて良かったー。…これで、わたしも安心して退院できる」
「え?露希ちゃん、退院するの?」
「あ、うん…。実は、14日にね」
「ほんとに!?でも、全治3ヶ月って…」
「うん、まぁね。全治はまだまだ先だけど、入院するのは2、3週間でいいんだって」
「なんだ…。…それにしても、チーコちゃんと同じ日になんて偶然だね。…てゆーかそれなら誕生日パーティーできないじゃない。実行委員なんか引き受けちゃって、どうする気だったのよ?」
「そう怒んないでよー。わたしだって最近知ったんだから」
「そっかぁ…。でも、チーコちゃんが出て行って、露希ちゃんまで出ていったら、寂しくなるね…。結理恵ちゃんも都絆菜ちゃんも寂しがるんじゃない?」
「結理恵は分かるけど、都絆菜はなー。どーだろね」
「寂しがるよー。さっきだって、目に涙を溜めてたし」
「あれは可愛かったよね。初めて都絆菜が素直になった瞬間だったよー」
「うんうん!あんな妹なら欲しー!」
「…って芹佳、妹いるじゃん…」
「それはそうなんだけどー。とにかく可愛いよね!」
「そうそう!わたし、写真撮っちゃった」
「え!?いつの間に!?」
「ほらっ!可愛いでしょー?」
「可愛い…けど!だめでしょ!こんなこと!」
「ぶー」
「露希ちゃん!芹佳ちゃん!」
「おや、希美花ちゃん」
懐かしい人…。
「どうなったの!?…?小3ちゃんは?」
「…行っちゃった」
「…そっか。そうよね。でも、無事に伝えられて良かったんじゃない?」
「無事にって…無事じゃない伝え方ってどんなもの?」
「…にしても、まだ4日しか経ってないのねー」
露希ちゃん、スルーされました!!
「なにが?」
「露希ちゃんが入院してからよ。まだ4日なのね。露希ちゃんが来てからなんだか病院は騒がしいわ」
「悪かったね」
「いじけないでよ。良い意味で言ったんだから!」
「どう言う意味?」
「結理恵ちゃんも都絆菜ちゃんも、露希ちゃんが来てからより一層楽しそうなの」
「…そうかなぁ」
「そうよ!だから、これでも感謝してるのよ?」
「えー、そうかなぁ?」
「希美花ちゃん、態度に出にくいからねー」
「えっ…芹佳ちゃんひどい! 昔の面影はいずこへ!?」
「ちょっ、希美花ちゃんでは!」
「いずことかウケんね。古―」
「いや、露希ちゃん、その感想はちょっと…」
「へ? あー希美花ちゃん、今日の牡丹餅は!?」
「また、それか」
「はい、持ってきたわよー」
「そんかい! いっただきまーす」
by WCK-News | 2012-04-14 00:00 | 知花さんの小説『想い出』
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翌日。
「おはよー。露希ちゃん!」
昨日のことなんてなかったかのように、明るくわたしに話しかける芹佳。わたしは驚いて言葉が出なかった。
「…どうしたの?」
芹佳が首を傾げる。「ううん。なんでもない。…おはよう。」
…芹佳って凄いなー。わたしは、今日芹佳に会ったら、なんて言おうか。どんな態度をとったらいいのか考えていたのに、芹佳はそんなこと考えずに水に流した感じで話しかけてきた。怒ってないの?…わたしにはとても出来ない。
「今日、学校はどうしたの?」
「やだな~。今日は土曜日だよ?学校は休みじゃん!」
「あ、そっか。」
…昨日、一晩中考えていた。明日、露希ちゃんにどんな調子で話しかけたらいいのか。いっそのこと、明日はお見舞いに行かないでおこうか。そんなことも考えたけれど、なんだかそれは卑怯な気がした。それに、結理恵ちゃんに話を聞かれてしまったのはわたしのせいなのに、喧嘩しただけで逃げ出すなんてことしたら、結理恵ちゃんに顔向け出来ない。そして考えた末、わたしは何事もなかったかのように話しかけることにした。わたしには、昨日のことを引きずって重い空気のまま会話を始めることなんて出来ない。昨日のことをなかったことにするなんて、ずるいことかもしれない。でも、わたしにはこの方法しかなかったの。
「露希ちゃ~ん。親御さんから預かったもの持って来たわよー。…って、あら、芹佳ちゃん。」
今日の希美花ちゃんが手に持っているのは、鞄だ。それも、露希ちゃんのお気に入りの大きな鞄。
「こんにちは。」
「芹佳ちゃんが来てるってことは…もしかして、もう仲直りしたの?良かったー!」
「…えと…一応…仲直り…しました。」
そうであって欲しいなーと思いながら答える。露希ちゃんが『仲直りなんてしてない!』と言わないように願いつつ。けれど、露希ちゃんはなにも言わなかった。
「そうなの?安心したわ。そうそう、露希ちゃん。はい、これ。」
その鞄はベッドの側にある椅子の上に置かれた。
「ありがとう!希美花ちゃん。」
露希ちゃんはとても嬉しそうだ。
「なにもらったの?」
そうわたしが訊ねると、
「えへへー。見て!」
露希ちゃんが鞄のチャックを開け、中から取り出したのは…漫画だった。
「…漫画~?」
拍子抜け。もっといいものが入っているのかと思っていたのに。がっかり…。
「…なんか不満げだね。」
「そりゃそうだよ。いいものを期待したのに、中身が漫画だったなんて。」
「悪かったね。わたしは漫画が好きなのよ!芹佳だって知ってるでしょ? なんならわたしのこと、漫画博士って呼んでくれてもいいから!」
漫画博士って…。露希ちゃん、やけくそですね…。
「それに、病院って暇なんだよ? ちょっと前までは結理恵や都絆菜が来ていたけど、結理恵は話し合いが終わるまで来ないつもりらしいし、都絆菜とは喧嘩しちゃってるから来ないし、唯一の話し相手である希美花ちゃんは、仕事が忙しいからなかなか遊びに来てくれないし。」
「そっか…。それはそうだね。ごめん。それに露希ちゃん、漫画大好きだもんね。漫画が友達と言ってもいいくらい!」
「そうそう!だから、わたしのこと漫画博士って呼んでもいいよ?」
…呼ばれたいの…? 露希ちゃん…。
「あ、で、でも、漫画より芹佳の方が大事だよ?芹佳はわたしの心友だし。漫画はただの友達。」
慌てて弁解する露希ちゃん。わたし、こんな露希ちゃんがけっこう好きなんだよね。露希ちゃんが慌てると、面白いの。
「分かってるよ。わたしも露希ちゃんのことは、大切な心友だと思ってる。」
「わ~い。嬉しい!」
今度は喜んだ。単純と言うか無邪気と言うか…。コロコロ表情が変わるなぁ。
「じゃ、一段落ついたところで、再び結理恵ちゃんについて話し合うとしますか!」
ナイスなタイミングで希美花ちゃんが口を挟む。
「そだね。わたしも、どうしたらいいか昨日ちょこっと考えたんだけど、いい案が浮かばなくてさー。芹佳。なんかいい案ない?」
露希ちゃんてば人任せだなー。でも、それってわたしのこと信じてくれてるってことだよね。だから、わたしの意見を聞こうとしてくれているんだよね。嬉しいな…。ありがとう。口に出しては言えないけど、感謝してる。
「…あんまり思い付かないなー。…いっそのこと、本当のことを話したらどう?小学生の頃は大抵みんな素直で、今が1番純粋な時期だから、嘘なんかついたら綺麗な心を汚してしまう。子供が純粋のまま育つかどうかは、小学生の時に決まる。それに、純粋な子供には嘘なんか通用しない。子供は、大人が思っているより大人で、大人は大人が思っているより子供。子供は子供なりに真実を求め、知ろうとしている。だから、真実を知っていることが多々ある。そんな大人な子供に嘘は通用しない。だから、嘘をつくより正直に真実を話した方がいい。…って、希美花ちゃんのお母さんが言ってたよ。」
さっきまでは真剣だった露希ちゃんの表情が、わたしの話が終わると同時に力が抜けて、いつものふにゃっとした顔に戻った(悪い意味で言ったんじゃないよ!? 悪気はないから!
分かりやすく解説しただけ!)。
「なんだ~。わたし、芹佳の考えかと思っちゃった!真面目な顔して言うんだもん。不安になっちゃったよ~。あ~、良かった。いつもの芹佳だ。」
露希ちゃんが安心したように、ほっと胸を撫で下ろす。
「露希ちゃんも、いつもの露希ちゃんだよ。」
露希ちゃんに真面目な顔は似合わない。わたしは、いつも通りふざけるのが好きだけど、温かい優しさを持っていて、相談に真剣にのってくれる露希ちゃんが好き。露希ちゃんに励まされると、なぜか安心するし、勇気が出る。わたしもいつか、露希ちゃんみたいに人から頼られるような人になりたいな。なれたらいいな。
「え~?いつものわたしってどんなの~?」
露希ちゃんが首を捻る。
「内緒っ。」
いつか教えるよ。わたしが、露希ちゃんみたいになれたら。そしたら、実は露希ちゃんに憧れていたって言おうかな。あの頃の露希ちゃんに救われていたって。
「芹佳ー! ギブする! だから教えてよー!!!」
必死な露希ちゃん。だけど、わたしに教える気はないよ。悪いけど。もう少し。あと何年か待って。そうしたら、きっと露希ちゃんにすべて話すよ。だから、露希ちゃんも今のままでいてね。変わらないでね。ふざけることが日課だけど、相談(聞く専門)上手な露希ちゃんのままでいてね。わたしが大人になってからも、きっとまだまだ露希ちゃんに相談に乗って欲しいことがあるはずだから…その時はよろしくね。露希ちゃん。
「…そろそろ話し合いに戻っていいかな?」
希美花ちゃんだ。彼女の言葉で、はっと我に返った。希美花ちゃんがいたの忘れてた…。わたし達、いつものように、2人だけしかいないかのように話してしまっていた。
「…でも、良かったわね。」
希美花ちゃんが微笑んで言う。
「なにが?」
「だって、昨日は大喧嘩をしていたのに、1日経っただけで、もう仲直り。心友には『ごめん』なんて言葉いらないのね。」
…てゆーかわたしが喧嘩をなかったことにしちゃったからなー…。
「そうなの!わたし達くらいいつも一緒にいると、相手の考えてること分かるの!」
それには同意出来る。わたしにも、なんとなく露希ちゃんの考えてることが分かるし。ちょこっとだけね。
「…ってなわけで、今回の話し合いは終了~☆」
突然露希ちゃんが話し合いを終えてしまった。
「え、終了って? なに勝手なことしてんの! まだ話し合い終わってないよ!?」
「え?終わったんじゃないの? だって、みんな芹佳の意見に反対出来ないし。嘘をつくより本当のことを言った方がいいしね☆」
でも、これで決定にしちゃっていいの? 今回の話し合いって、わたしが意見を言っただけじゃん…。そんなの話し合いじゃないよ!!
「言われてみればそれもそうねぇ。よし!じゃ、芹佳ちゃんの意見を採用しましょう。決定ね!」
って、希美花ちゃんまで賛成なの!? しかも断定しないで~!
「うん! 決定! 決定!」
えっ…ちょっ…。
「ちょっと待ってよ!たしかにわたしの意見もいいと思うけど(さらっと自慢?)、他の考えもあるんじゃない?だって、チーコちゃんがもうすぐいなくなっちゃうなんて知ったら、きっと結理恵ちゃんも都絆菜ちゃんも傷付くだろうし…。」
by WCK-News | 2012-04-11 00:00 | 知花さんの小説『想い出』
☆初めての方は、こちらもあわせてお読みくださいね。
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わたし達は病院近くにある所要時間1分のとある小さな公園へやって来た。一部芝生が生えているところがあったのでわたし達はそこに座った。
「へぇ~、病院の近くにこんなところがあったんだ~。わたし、全然気付かなかったよ!」
露希ちゃんが悔しそうにしている。それもそのはず。この公園はまさに病院の裏にあったのだから。
「いいところでしょ? ここ。静かだし、春になると桜も開花してくれるのよ。それなのに意外と知られてないの。絶好の穴場よね。4月には、病院仲間とお花見したりなんてこともできるし」
「そうなんだ。ほんといい場所だねー。わたしもこれからはここでお花見しようかな♪」
ふわふわり、優しく吹き抜ける風が心地好い。ツインの髪どめも気を抜いたら飛んでってしまいそうだ。
「うん、わたしも賛成!」
「って、露希ちゃんは花より団子でしょ。お花見より食べ物が目的なんでしょー」
「さ、さすが…」
パチパチ、目を細めながら露希ちゃんが小さく拍手してくれる。
「だって、心友歴もう7年だもん」
そう言いつつもどうしても驕りは隠せずふくらむ小鼻を隠そうとわたしは緩く咳込んでみた。
「それで、結理恵ちゃんの件はどうするの?」
よかった、希美花ちゃんが話を続けてくれたお陰で全く気付かれなかったや。
「せっかく芹佳と話してるっていうのに、希美花ちゃんてばー。久々なんだからもうちょっとくらい待ってくれたっていーじゃない」
ブツブツ文句を言うもののなぜか弱気な露希ちゃん。
「だってあなた達が話し終わるのを待っていたら、日が暮れそうなんだもの」
容赦なく切り込む希美花ちゃん。希美花ちゃんてばキャラ変わってない?
「それはあるかも…でもさーそれもこれも全部芹佳のせいなんだよ?  だって一週間も時間があったのに芹佳一度もお見舞い来てくんないし。一回でも会いに来てくれてればわたしだってあんなにペチャクチャ喋ることなかったんだよ」
露希ちゃん…忘れかけてたのに凄く嫌味なこと言うなー。
「だーかーらー、それは悪かったって言ってるでしょ。 病院で会った時ちゃんと謝ったじゃない。それに、その後露希ちゃんの買い物にも(押し付けられて)行ったし」
「あーっ! なんかどっか押し付けがましい! なんか自分がしてやった! みたいな感じ~!」
「失礼な! そんなこと思ってないよッ! てゆーかどの口が言うわけ?  そもそも買い物押し付けたのは露希ちゃんでしょ!」
「やっぱりそんな風に思ってたんだ!  ならあの時断ればよかったのに!  どうして断らなかったの!?」
「どうしてって、あの時露希ちゃんがわたしの意見も聞かずに背中グイグイ押してくから言う暇なかったんじゃない!  そんなの言えるわけないじゃんか! それなのにどう言えって!?」
「んなのいくらでも手段あんじゃん。わたしなら理不尽なことには絶対口を出すね」
わたし達の喧嘩は留まることを知らずますます激しさを増していく。
「二人共、口論してる場合?  なにより今は結理恵ちゃんのことでしょう!? まったくいつもいつも二人は話が逸れていっちゃうのね」
とうとう見兼ねた希美花ちゃんが止めに入った。
「言っとくけど、それはわたしが悪いんじゃないよ。 いっつも芹佳から突っ掛かってくるんだよ」
「はいはい、あなたの言い分は分かったから。とりあえず一時停戦しなさい。そうしないと話し合いしようにもできないでしょうよ」
露希ちゃんはわたしと目を合わせようとしない。喧嘩してわたしにすべての責任吹っかけた手前、今更…とでも思っているのだろうか。それならと、わたしも露希ちゃんから視線を逸らした。
「…また意地の張り合い?」
ふっと希美花ちゃんが溜め息を吐く。
…わたしが悪いんだよね。わたしは相手が誰であれ元々よく喋るのに、つまんないプライドで芹佳のせいにしちゃったから。きっとわたしが謝れば芹佳は笑って許してくれる。でも、どう切り出したらいいのか分からない。どうやって謝ったらいいのか分からない。芹佳、怒ってるかな…怖くて芹佳と目が合わせられない。もう、わたしの弱虫!
「…もう今日は無理ね。いいわ、今日はこれっきり、お開きにしましょ。一度よく頭を冷やした方がいいわよ、二人共」
そんなわけで会話もままならないままわたし達は沈黙の時間を共有しながら長い一分を耐え抜き病院へ戻ってきた。
「じゃ…わたし、帰るね。…露希ちゃん…お大事に」
「…うん」
そしてそそくさと芹佳は自宅へ向かい、わたしは落ち込んだままベッドへ潜り込んだ。
「露希お姉ちゃん…」
いつの間にか眠っていたらしい。細い幼い声に目を覚まし飛び起きると、結理恵が病室のドアから顔を覗かせていた。
「結理恵…どうしたの?  もしかしてプリント終わった?  あ、ならこれ次の…」
そばにあったファイルから乱雑に一枚を取り出す。
「違うの違うの、まだそれはできてないんだけどね、難しくて」
「あ…そか、結理恵レベルアップしたもんね、分かんなかったら聞きにおいで。お姉ちゃん、教えたげるから」
「あっ、ありがと」
そう言うと結理恵は一度床に視線を落とし、それから柔らかな目でわたしを見た。
「…でね、今日ここに来たのはね…」
「なに?」
微笑んでみせると結理恵は緊張を解いたように笑うとこう言った。
「あの…お話、終わった?」
「あ…」
言われて我に返った気分になった。そうだ、そのために今日わたし達はあそこに行ったのに。
「ごめん、それがまだなんだ…ごめんね」
「そっか」
「明日にはきっと結理恵に話すから。だからそれまで待っててくれる?」
「うん。じゃあ、お話が終わったらわたしの部屋に来て?  わたしから会いに行くと邪魔になるかもしれないから。露希お姉ちゃんが報告してくれるまで、わたしなにもしないことにする。よろしくね、じゃあね、おやすみなさい」
言い切ると返事も聞かず結理恵はさっと反転してドアを閉めた。耳を澄ますといつものおばちゃんが消灯時間を連呼しながら歩く音が院内に静かに響いている。そうか、もうそんな時間だったのか…。時計を見てわたしは理解する。
「明日になったら…ちゃんと仲直りするからね…」
来たる明日まであと約2時間。それまでゆっくり眠れ、かわいい子羊。
by WCK-News | 2012-02-09 00:00 | 知花さんの小説『想い出』
☆初めての方は、こちらもあわせてお読みくださいね。
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「あ、芹佳ー。遅かったじゃん、なにしてたの?」
「あ、思ったより買い物に時間がかかって。あの、それより都絆菜ちゃんのことだけど…」
「え?  都絆菜がなにかしたの?  ごめん!  わたしから叱っとくから許してやって」
露希ちゃんはそう言ってわたしに手を合わせた。
「許すもなにも…都絆菜ちゃんは露希ちゃんに叱られるようなことなにもしてないよ。ただ、ちょっと聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと?」
小首を傾げ露希ちゃんはわたしを見た。
「…都絆菜ちゃんていい子だよねー。子供らしくないけど、凄く友達想いで」
「でしょ~?  都絆菜って、気は強いけど実はいいヤツなのよー」
そうやって露希ちゃんは屈託のない笑顔を見せた。
「さっき買い物に行った時都絆菜ちゃんに会ったんだ。…そこで全部聞いちゃった。ねぇ、露希ちゃん。わたしは都絆菜ちゃんの提案、いいと思うんだけど、どうして反対しているの? あと、チーコちゃんって誰…?」
「チーコってのは結理恵と都絆菜の友達で小三。二人と同じ入院仲間で…あ、ちなみに本名は杜若知依子ね。…そりゃわたしだって都絆菜の提案には大賛成だった。もちろん今も変わってないよ。…だけど、それはできないんだよ…」
「どうして…?」
わたしは露希ちゃんの表情が曇っていたのを知りながらそれを問い質さずにはにはいられなかった。
「毎月誕生会は十五日にするの。一日と三十日の間ってことで。もちろん今月もね。…小三軍団はあの三人しかいなくて遊ぶ時はいつも三人きりだった。まぁお陰で絆は大分深まってるけどさ。…でも今月の十四日にチーコは退院しちゃうから、ちょうど誕生会には参加できないの…」
『バサッ!』 紙が床に落ちる音がした。
「え? なんの音?」
「分かんない。さっきの音、ドアの向こうからしたよね…ドア開けるよ?」
『ガラガラ…』
静かにドアを開けそこに立っている人物を見た時、わたし達は思わず息を飲んだ。
「結理恵…!」
「結理恵ちゃん…!?」
同時に叫ぶわたしと露希ちゃん。なんとそこにいたのは結理恵ちゃんだった。
「…ちーちゃんいなくなっちゃうの…?」
わたしは慌てて床に散らばった紙(プリント)を拾う。そして露希ちゃんは慌てて弁解する。
「ゆ、結理恵…今の話はなんでもないから黙っといて? ね?」
「都絆菜ちゃんに知らせなきゃ…!」
幼い我が子を諭すような形で説得を試みるも失敗。露希ちゃんの言葉にも耳を貸さない結理恵ちゃん。
「結理恵ちゃんっ! ちょっと待って!」
わたしは急いで結理恵ちゃんの先回りをして病室の扉を閉める。
「どうして? どうしてだめなの? どうして都絆菜ちゃんに教えちゃいけないの? わたし達、ずっと一緒だよって約束したんだよ? ちーちゃんがいなくなっちゃうの嫌だもん。都絆菜ちゃんにも教えて二人で止めるの…!」
この騒ぎを聞き付け登場したのは希美花ちゃん。なぜか片手に紙袋を持っている。
「どうしたの!?  結理恵ちゃん、落ち着いて。話は露希ちゃんから聞くから、結理恵ちゃんは部屋に戻りなさい。後でじっくり分かりやすく説明するから。この騒ぎのことは都絆菜ちゃんや知依子ちゃんには言っちゃだめよ。言ったら二人共結理恵ちゃんのこと心配しちゃうから。ここにいる子達はみんな身体のどこかに悪いところがあるの。それは結理恵ちゃんもよく知ってるでしょう? だから余計な心配させないようにしてあげて。辛いだろうけど、このことはひとまず結理恵ちゃんの胸にしまっておいて」
希美花ちゃんの必死の説得に結理恵ちゃんも納得したようだ。素直に頷いて病室へと戻っていった。
「た…助かったぁ。ありがと、希美花ちゃん」
「じゃ、なにがあったのか一連を話してもらいましょうかね。嘘はだめよ。正直にすべてを話すこと。大丈夫。私はあなた達の味方だから。ね」
そう言い希美花ちゃんは院内全体を穏やかに包むように微笑んだ。

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by WCK-News | 2011-11-19 00:00 | 知花さんの小説『想い出』
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⇒⇒⇒「上村知花さんの小説連載のご挨拶(井上摩耶子)」
⇒⇒⇒「上村知花さんのエッセイ連載のご挨拶(井上摩耶子)」


わたし、尚崎露希が入院して一週間が過ぎた。その辺をうろちょろすることもできないし、かと言って病室にも遊ぶものがない。病院って…暇だなぁ~。まだ3日だが、すでにわたしは退屈を知っていた。
「やっほ~♪」
そこに来訪者が現れた。どんな来訪者でも暇な病院ではありがたい。
「芹佳~! 来るのが遅いよ~。忘れられたかと思っちゃったじゃ~ん」
芹佳とわたしは心友なのに、この一週間一度もお見舞いに来なかったの。ひどいよね。
「やはは~、ちょっと用事があって…ごめんね?」
芹佳が胸の前で手を合わせて謝る。
「露希お姉ちゃん! プリントの答え合わせして~!」
えっ? 露希ちゃんに妹がいたの? 初耳なんですけど…しかもわたし、会ったことないし。
「あっ、結理恵~。…と後ろにいるのは都絆菜じゃん! てことはぁ、謝る気になったのかな~? こっちが正しいって認めたのかな~?」
意地悪く笑う露希ちゃんを見て、わたしは思った。…なんだか違うみたい。
「ふん! 誰が!」
都絆菜ちゃん(とさっき呼ばれていた子)がぷいっと顔を背ける。
「露希ちゃん…この子達は…?」
わたしの声にやっと露希ちゃんがこっちを向いた。
「そっか、3人は初対面だっけ。紹介するね、こちらわたしの心友の上條芹佳。で、こっちの好印象な子が都築結理恵」
結理恵ちゃんがペコリと礼をした。そして顔を上げてにっこり笑う。
「あれ…? 結理恵ちゃん、歯が…?」
結理恵ちゃんの前歯が2本ない。
「わたし、こないだ歯が抜けたの。見て、これ」
結理恵ちゃんがわたしに見せたのは小さな袋に入った2本の歯だった。
「わたしの宝物」
そう言って結理恵ちゃんはまた笑った。…歯の少ない口で。
「そんでこっちの気の強いのが飛来都絆菜」
露希ちゃんが紹介するけど、当の都絆菜ちゃんはなにも言わずにどこかへ行ってしまった。
「まだだめかぁ」
意味ありげにそう言う露希ちゃんにわたしは訊ねた。
「露希ちゃん…あの子となにかあったの?」
「…ちょっと喧嘩しちゃって」
困ったように溜め息をつく。
「喧嘩?」
露希ちゃんは筆箱から赤ペンを取り出した。そして思い出したように結理恵ちゃんに渡されたプリントの答え合わせを始め、そのまま話し出した。
「そう、喧嘩。実はねー、この病院で毎月誕生日パーティー…とまではいかないけどそんな感じのことはするらしいのね? それで今月はわたしと結理恵と都絆菜がその実行委員をすることになったんだけど…ことあるごとにわたしと都絆菜が衝突してさ…それで今みたいになったのよ」
…大人気ないよ、露希ちゃん。相手は子供なのに。
「まったく子供だよねー、都絆菜ったら! ほんと参っちゃうよ。…わ! 結理恵! 今回全問正解だよ! 凄いね! おめでとう!」
露希ちゃんはまるで自分のことのように喜んでいる。そんな露希ちゃんの言葉に結理恵ちゃんは、
「やったぁ! 初めて全問正解した~!」
…と万歳を3回して喜びを表していた。…露希ちゃんて、子供の扱い上手いんだなぁ。でも露希ちゃんは昔からそうなんだよね。人の幸福を自分のことのように喜んで、人の不幸を自分のことのように涙を流して悲しむ。そういえばわたしの時もそうだったなぁ…。
「芹佳ー! 一週間もお見舞いに来なかったお詫びに買い物行ってきてよ。この紙に書いてあるの全部! 一階に売店があるからよろしくね☆!」
露希ちゃんはわたしの手にメモを一枚握らせ、背中(わたしの)を押しだした。
「え…ちょっ…露希ちゃん?」
まったく露希ちゃんは強引なんだから。…それも昔から変わってないなぁ。


一階の売店に来ると都絆菜ちゃんが店の前をウロウロしているのが目に入った。
「都絆菜ちゃん?」
声をかけると都絆菜ちゃんはわたしの方へ来た。
「…芹佳…って言うんでしょ? あんた」
「う、うん。まぁね」
呼び捨てされた…しかもあんた呼ばわり。
「そっかぁ…」
都絆菜ちゃんは近くにあった椅子に腰掛けた。
「どうしたの? 売店でなにか買いたいものでもあった?」
わたしが訊ねるとちょっと考えてから都絆菜ちゃんは話し出した。
「…今月はチーコの誕生日もあるからチーコの好きな花をいつぱい飾って誕生日を祝いたいの」
「…」
わたしはその話を聞いてはいたが、内容はよく分からなかった(突然話し出されたし。てゆーかその前にチーコって誰…?)。
「そ、そうなんだ。都絆菜ちゃん、優しいのね。きっとそのチーコちゃん(?)も喜ぶよ」
「でしょ? あたしもそう思う」
途端に笑顔になる都絆菜ちゃん。…こういうのを自画自賛って言うんだっけ? なんだか可愛げがないなぁ。いや、顔はかわいいんだけどね?
「…でも、露希が反対するの」
都絆菜ちゃんがしょんぼり俯いて呟いた(てか露希ちゃんも呼び捨てなんだ…)。
「どうして…?」
わたしはとても不思議に思う。露希ちゃんは子供の純粋な夢を潰そうなんてひどいことをするような子じゃない。それは心友のわたしが一番よく分かっている。こんなかわいい提案、露希ちゃんなら笑顔で賛成してもいいのに…どうして?
「…毎月の誕生日の実行委員が提案したアイデアはたいてい通るけど、通るための条件が一つだけあるんだ。それは実行委員全員がその提案に賛成すること。みんなの気持ちが一つにならないと誕生日パーティーも楽しくならないからって希美花ちゃんに言われたの」
「希美花ちゃん…って?」
「希美花ちゃんはこの病院の看護師さんだよ。田沼希美花ちゃんていうの。すっごく優しいお姉ちゃんで、病院の人み~んな希美花ちゃんのこと大好きなの!」
「そうなんだ~。人気者なんだね」
…てあれ? 田沼希美花ってどこかで聞いたような…でもどこでだっけ?
「もしかして希美花ちゃんのお母さんもここで働いてるの?」
「そうだよ。希美花ちゃんのママはすご~く怖いんだ。チーコも結理恵も怖がってて、お薬の時間に希美花ちゃんママが来たらおとなしくお薬を飲むの。お薬苦くて嫌いだけど、あの人はもっと怖いからって。あたしは全然怖くないけどね」
都絆菜ちゃんが胸を張る。親が怖いのか…じゃあやっぱり田沼ってあの…。
「都絆菜ちゃん、こんなところにいたのね。みんな心配してるのよ、私と一緒にお部屋に戻ろう」
一人の看護師さんが迎えに来た。
「お迎えが来たみたいだね。…都絆菜ちゃん。露希ちゃんは都絆菜ちゃんが思ってるような人じゃない。それはわたしが断言する。自信を持って言えるよ。だってわたしは露希ちゃんの心友だから。チーコちんのことも、きっとなにか理由があるはず。後で露希ちゃんに聞いてみるね。本当のことを知ったら真っ先に都絆菜ちゃんに知らせるから」
「…期待しないで待ってるよ」
最後に都絆菜ちゃんは鼻で笑ってそう言い病室に戻っていった。…つくづくかわいくない。&子供らしくない。…あ、わたしもそろそろ戻ろ。…てかなんでここに来たんだっけ。手を動かすとクシャという音。見ると中にはボロボロの紙。
「あ…!」
忘れてた。買い物頼まれてたんだった。早く買って戻らなきゃ。えーと、赤ペンとカチューシャと…って露希ちゃん、カチューシャなにに使う気? カチューシャつけるの嫌いなくせに。カチューシャなんか売ってるわけないじゃないかーーー!!!
しばらくそこには芹佳の叫び声が響いていた。
by wck-news | 2011-09-05 00:00 | 知花さんの小説『想い出』
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時は7年前に遡る。わたしが小学1年生になった頃。大きく変わった環境に戸惑い焦るわたしに遊び仲間はいなかった。
『あーあ…』
楽しそうに遊ぶ同い年の芹佳達を見て思わず湧き出る暗い溜め息。
『どうしてみんなと遊ばないの?』
いつの間に来たのか音もなくそばまで寄ってきた乙ちゃんに訊ねられた。
『だって…わたし、みんなと遊ぶより一人でいる方が好きなんだもん』
嘘だった。ほんとはみんなと遊びたかった。でも自分からあの中に入っていけず、黙って見ているしかないのだ。
『ふぅん…ほんとに?』
聞き返されたことに驚いてわたしは乙ちゃんの方を向いた。それを見た乙ちゃんはクスリと笑った。
『嘘吐き。ほんとはみんなと一緒に遊びたいくせに。わたし、知ってるよ。露ちゃんの素直になれないその気持ち。…露ちゃんがどれだけみんなと遊びたいか』
ずばり言われて答えられない。この子は誰? どうしてそこまでわたしの気持ちが分かるの?
『この前露ちゃんの絵を見たんだ。あれ、ここのみんなの絵だよね。みんなで楽しそうに遊んでた。わたしも露ちゃんも芹佳ちゃんも。みんな仲良しだったね。みんな笑顔だった。露ちゃんて絵上手いよね。…それに…』
言いかけて乙ちゃんは草がぼうぼう生い茂る場所に寝転がった。なにしてんの!? と思った。
『それに…露ちゃんが人一倍優しいってこともわたしは知ってるよ』
優しい? わたしが?
『違うよ! わたしは優しくなんかない! わたしは芹佳ちゃんみたいに席を譲れないし、道を教えられないし、探し物を探してあげることもできない…そんなわたしのどこが優しいって言うの!? 慰めならやめてよ!』
すると乙ちゃんはいつになく真剣な顔をして言った。
『露ちゃん。目に見える優しさだけが優しさじゃないんだよ…。露ちゃんの優しさはそんなものじゃない。そんなに小さくない。露ちゃんは困ってる人がいたらあれを手伝いたい、これをしてあげたいっていろんなこと考えちゃうんだよね? 露ちゃんの優しさは大きすぎて全部はできないんだよ…露ちゃんはなにを優先すべきなのかを迷ってしまうからなかなか行動に移せないだけなんだよね? わたし、そんな露ちゃんが好きだよ。何事にも一生懸命な露ちゃんが大好き。…芹佳ちゃんが羨ましい気持ちは分かるよ。でもそんな気持ち、他の誰かも露ちゃんに対して持っているかもしれないよ。もしかしたら芹佳ちゃん自身もそんな風に思っているのかもしれないね、露ちゃんと変わりたいって…。露ちゃんは気付いていないだけなんだよ。周りを見てばかりいると疲れちゃうしバテちゃうよ。たまには自分も見て自分自身を褒めてあげようよ。露ちゃんは他の人と変われない。露ちゃんは露ちゃんでしかいられない。けどそれはみんな同じ。わたしだって芹佳ちゃんだって露ちゃんとは変われないもん。露ちゃんは世界にたった一人だけ。どんなに露ちゃんに似てる人がいたとしても、それは露ちゃんじゃない。全然別人なんだよ。それを分かってね…』
乙ちゃんはそう言って立ち上がりパタパタとどこかへ走り去っていった。その翌日、先生に乙ちゃんは引っ越したと聞かされた。その時のショックは計り知れないもので、家に帰ってから大泣きしたことを今でも覚えている。

「あの~、おばさん。わんちゃんを探しているんですよね? わたし、手伝います!」
我に返るとすでに芹佳がおばさんのところに行っていた。
「あらまぁ、それはありがとう。でもねぇうちのポチは…」
言いかけておばさんは芹佳の抱いている猫を見て叫んだ。
「ポチ!」
ポチ? わたしと芹佳はびっくり。この猫がポチだったなんて…。
「見つけてくれてありがとうねぇ。実はこの子がうちのポチなのよ。今時間あるかしら? お礼をさせてちょうだい」
「そんな! い、いいですよぉ! ね、露希ちゃん?」
「はい。わたし達、そんなつもりで探したんじゃないし…」
わたし達は必死に遠慮した。そして観念したのはおばさんの方で、それなら仕方ないわね…と言い何度も振り返って礼をしながら帰っていった。
「ねぇ芹佳。芹佳は…その、わたしのこと羨ましいなぁって思ったこととか…ある?」
芹佳はきょとんとして目をぱちくりさせた。そしてこう言った。
「露希ちゃんたら、なに言ってんの? そんなのあるに決まってるじゃん! 露希ちゃんて一人でも楽しそうだから本当に羨ましかった。小学生の頃からずっと羨ましかったんだ。今そんな露希ちゃんと仲良くなれて、わたし、本当に幸せだよ!」
いや…あれはただのやせ我慢で…なんて本音は言わない方がいいかな。少し気分が良くなって軽やかに歩き出す。今思うと、乙ちゃんはわたしを励ますために天使が乙ちゃんになって助けに来てくれたのかもしれない…。
「あ~! 露希ちゃんっ!」
芹佳が叫ぶ。
「へ? なに?」
芹佳は口をパクパクさせている。言葉が出てこないようだ。
「か、か、階段! 落ちちゃうよ! 止まって~!」
ガタガタガタ~ン! また芹佳の言うことを聞かなかったから痛い目見ちゃった。
「露希ちゃんっ! 大丈夫?」
芹佳が慌てて駆け寄ってくる。
「これくらい平気だよ~。芹佳、大げさ~」
そう言って立ち上がろうとしたんだけど、足が痛くて立ち上がれない。
「もしかして露希ちゃん、骨折しちゃったのかも…。段数多かったもんね。病院でちゃんと診てもらった方がいいかな。学校ももう終わったし、露希ちゃん家に電話して迎えに来てもらお。その足じゃ家まで戻れないだろうから、わたし電話してくるね。公衆電話で☆ あっ、お財布忘れた」
大丈夫か…? 財布を忘れる芹佳に不安を抱く。
「てかそれ無理だから。うち共働きだし。言ってなかったっけ?」
ぽかーん。口を開けっ放しにして呆けている。
「そ、そっか。そういえばそうだったね。じゃわたしの親に来てもらおう! うちなら共働きじゃないから大丈夫」
そして芹佳は近くの公衆電話へ向かった。あちこちの人に場所を聞きながら。
芹佳がいてくれてよかった。わたしは素直にそう思った。…それにしても足が痛い…。

「芹佳! 露希ちゃんは!? どこ!? 無事なの!?」
すぐに芹佳のお母さんが車でやって来た。心配性なようで他人の家の子のためにわざわざ車で。しかもパワフルだ。優しそうな人だが見ていればすぐに分かる。
「あっ露希ちゃん、早く車に乗って! 一刻も早く良いお医者さんに診てもらわないと! 前に院寺総合病院がいいって聞いたわ。たしか名医がいるらしいからそんなケガ一発よ! 診察料が不親切なのが嫌だけど…そんなものどうだっていい!」
車を飛ばしあっというまにわたしは病院の診察室へ。
「これは…骨折ですね」
レントゲンをパシャパシャ撮られ、一息ついてすぐに告げられた衝撃の一言。これまで大きなケガには無縁だったこの露希ちゃんが骨折!?
「それもかなり複雑な骨折なので…2、3ヶ月ほど入院して頂くことになりますね」
2、3ヶ月って…1ヶ月の差は大きいぞ(笑)?

「骨折かぁー」
診察が終わり、とりあえず近くにあったソファに腰掛けた。芹佳のお母さんはわたしの両親に入院連絡をしている。
「骨折ねぇ…」
そんなこと言われても珍しすぎて実感湧かないよ。足を見ても肉眼ではそんなの分からないし。
「でも入院って…なんか面白そうなことありそうじゃない♪?」
「もう、露希ちゃんてば…」
そんなわたしを芹佳は呆れたように見て笑っている。
「でもできるだけお見舞いに来るからね」
「うん、ありがと。見舞い品とか安いもんでいいからね」
「請求はするんだ…(笑)」
そんな雑談(?)をしているうちに芹佳のお母さんが帰ってきた。またみんなで1時間ほどお喋り。と、いつの間にかほんのり外が暗くなってきていた。そろそろ帰らなきゃと名残惜しそうだったがそろそろ別れの時間。
最後に芹佳は頑張ってね! と声をかけた。わたしはそれを苦笑いで受け取り、そして上條親子は帰っていった。
…わたしの苦笑いの裏にこんな思考があった。
頑張れって…医者が? それとも頑張るのは足なのか? 

夜になったら両親が日用品を持って会いに来る。さてそれまでなにをしようかな~。暇だ。いつも遊んだりゲームしたり(勉強は選択肢にはございません)してたからこんなに退屈するのは久しぶり。
あ、なんか突然睡魔が襲ってきた。することもないし、ここは素直に従うことにしよう。じゃ、おやすみ~。

つづく



by wck-news | 2011-08-11 00:00 | 知花さんの小説『想い出』
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次の日…の朝。
「露希ちゃ~ん!」
いつも通りにとてとて走ってくる芹佳。
「…芹佳」
わたしは言う。もう芹佳も気付いてるだろうな。
「あのさ、昨日のプレゼント、あれ、わたし達同じもの渡したっぽくない? やっぱ芹佳もナガフジデパートで?」
「そうそう! 500円ポッキリでいろんな文具が入ってるセット買ったの! あれ、超お得なんだよね!」
たしかに得だ。でも、わたしが買った時は税込みで525円だった(細かい?)。
「…ところでさ、露希ちゃん、猫好きになったの?」
ぱちくり。何度もまばたきして芹佳を見る。芹佳なら知ってるはずなのに、どうしてこんなこと聞いてくんの?
「芹佳! なにふざけてんの! わたしが猫を好きになるわけないでしょ!」
だから、つい強気口調で言ってしまう。
「…そうだよね。…じゃあおかしくない? どうしてそこに猫がいるのに無反応なの?」
“え? ”背筋が凍ったのを感じながらゆっくりと足元を見る。
そこには、たしかに猫がいた。ノラには見えない綺麗な猫だ。毛並みは白く、金色の鈴の付いた首輪を付け、愛くるしい瞳をしてわたしを見ている。耳も白いがほのかにピンク色がぼやけて見える。わたしはこの淡い感じの色が少し好きだ。でも、わたしとしてはもう少し色があった方がいいと思う。
って、色について語ってる場合じゃない。猫。猫…。
「ぎぃゃぁぁ~!!!」
わたしの叫びに周りの人達が驚いた表情を見せる。でも、わたしはそれどころじゃない。慌てて芹佳が猫を抱き上げる。
「きゃ~ん! 可愛いぃ~~。…もー。露希ちゃんてば、なんでこんな可愛い猫ちゃんを怖がっちゃうの~? 全然怖くないのにー。あっ、この仔小猫ちゃんだ~。ほら、この小さい手! 幼い証! きゃっ、見て、目ぇ掻いてる! や~ん、もうほんと可愛い~! 可愛いすぎる~~~っ!!!」
これのどこが可愛いって? 芹佳の気が知れない。それに、幼いって…あんたも子供のくせに。
「ちょっと、芹佳! いつまでそんな猫抱いてる気? 早くもとあった場所に帰して来なよ」
猫と目を合わせないように、必死にビビってないふりをする。
「露希ちゃんてば…そう言いながら後ずさりなんかしてどーすんの。猫って可愛いよ~。露希ちゃんの猫嫌い…いや動物嫌い、なんとかして克服しよ?」
な、な、な! この人は笑顔でなにを言ってるんだ!? あんたは悪魔の化身か!?
「なに言ってんの! 悪魔の囁きみたいなこと言わないでよー。あ、そだ。悪魔といえば、わたし今日クロスのペンダントしてるんだよ。気付いてた? あと、ブレスも☆ これもクロスなの。ついでにナガフジで半額だったイヤリング♪」
髪を掻き揚げて芹佳にイヤリングを見せつける。可愛いでしょ?
「?」
芹佳は理解できなかったのか、首を傾げてわたしを見ている。
「…ちょっと~。これ、クロスよ? 十字架だよ? なんで見てて平気なの。もっとビビりなさいよ。怖がりなさいよ。…(わたしみたいに)後ずさりしなよ!」
そう言いながら、じりじりと芹佳に近付いていく。
「???」
それでもやっぱり芹佳の顔には分からないと書いてある。…なんで分かんないの? ここまで言ってんのに。
「あ!」
なんか分かった。もしかしたら芹佳、クロスがなにか知らないんじゃない? 十字架のこと、よく知らないんだよ!
「ふっふ~ん。なんだ、そいうこと? しょーがないな~。仕方ないから、この露希教授が教えてあげよう! ええと、クロスって言うのは、『+』みたいなもので…って、意味は全然違うんだけどね。で、そのクロスがなんなのかって言うと~、これは悪魔が怖がるもので…」
「もしかして…」
芹佳が小さくわたしを遮って話し出す。
「もしかして露希ちゃん、悪魔と吸血鬼、間違えてる?」
「へ…?」
悪魔? 吸血鬼?
「だって悪魔が苦手なものってわたしが知る限り存在しないし、クロス怖がるのって吸血鬼だし…。単純な考えだけど、悪魔と吸血鬼がごちゃ混ぜになっちゃってるのかなって。…あ、でも露希ちゃんならそんなことないよね。こんなことミスらないよね。…わざとだよね。…さっきの悪魔って、わざと言ったんだよね?」
芹佳が急に早口になった。…悪魔。吸血鬼。
「…」
返す言葉を必死に探していると、どこからか『ポチー! ポチー!』と飼い犬を捜している声が聞こえてきた。
「わんちゃん、いなくなっちゃったのかな? わたし、犬探し手伝ってくる!」
猫をその手に芹佳は走り出す。
「待ってっ! わたしも行くっ!」
わたしは後を追うように芹佳に続いて走り出した。

やだやだ。待って、先に走ってっちゃわないで。一人で進まないで。
…あの日の記憶が甦る。


覚えてるかな? 小学校の時。あの頃の芹佳も今みたいに困ってる人を見捨てられなかったんだよね。バスや電車では必ず席を譲り(正直譲るくらいなら最初から座ってなきゃいいのにとしょっちゅう思っていたが)、道に迷っている人を見れば、聞かれる前に自分からその人のもとへ行き道を教え(アメニモマケズ調?)、コンタクトを落とした人がいればいつも一緒に腰を落として捜してた。…芹佳って昔からそういうことが平気でできる子だったよね。まだ幼くて(つっても同い年だけど)、自分のすることにすら疑問を感じていたわたしには、そんな芹佳が眩しくて、ただただ凄かった。芹佳の行動を指をくわえて見ていることしかできなかった。なにもできないでいつも陰で泣いていた(今のわたしからはそんな時代があったなんて思いもよらないだろうけど)。
あの頃の芹佳は男女問わず年齢問わず誰からも好かれていた。人気者だった。近づくスキなんてなかった。…わたしって変わったよね。今はそんなにも憧れてた芹佳が近くにいて、今わたしに心を開いてくれてる。


憧れていたといえばもう一人。また違った憧れを持った人がいた。
その子の名前は乙ちゃん。わたしに変わるきっかけをくれた人だ。

『露ちゃんは優しいね。あなたは世界にたった一人の露ちゃんだよ』

乙ちゃんは、ずっとわたしのそばにいてくれた。寂しいなって思ったらいつも近くにあの子の後ろ姿があった。一緒に遊ぼって、ずっとずっと言って欲しかった言葉で誘ってくれて、遊んでくれて、仲良くしてくれたの。
わたしの中の乙ちゃんの存在はとても大きい。乙ちゃんがいたから、わたしは今のわたしでいられるんだ。だってあの日、乙女ちゃんはね…。

つづく
by wck-news | 2011-07-03 00:00 | 知花さんの小説『想い出』
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三年後

「芹佳、早くぅ! 今日から中学校だよ~!」
今日からわたし達は中学1年生。真新しい制服を着て、わたし達は走る走る。
「芹佳ったら、なんで入学式の日を忘れんの!? ほんと信じらんない!」
三年前のあの日と同じようにわたし達はこの道を走っている。
「露希ちゃんこそ! 昨日うちであんなにはしゃぐからぁ!」
昨日は久しぶりに芹佳の家に届けに行った。つい我を忘れて子供のように遊んでしまった。
「だって久しぶりだったんだから、しょうがないじゃん~! 芹佳だって、夜ずっと一緒に喋ってたくせに、わたしだけに責任押し付けないでよ。芹佳も悪いんだから! てゆーか遅刻して、その上間違えて小学校に行っちゃうなんて、なにそれって感じ! あ、学校だ…ってああ~! 門が閉められるぅ! 芹佳、急いで!!」
残りの距離を全速力で走ったわたしは、門までたどり着き、そのまま芹佳を応援する。と同時に思わず意味もなくその場で足踏み足踏み。
「到着~☆」
かなり遅れて芹佳が追い付く。あー、間に合ってよかった。
「だから、安心してる場合じゃないんだってばっ! 体育館まで走ろ!」
そうだそうだ。ここで安心してちゃだめなんだ。最終目的地(入学式の会場)は体育館だ~(汗)!
後ろから、芹佳の叫びが聞こえてくる。
「え~、またぁ~? もう嫌だぁ~!」
芹佳ってば、そんなこと言ってる間に走ればいいじゃん! 元気あるじゃん!!


それでもなんとか(ギリギリ)入学式には間に合って、これから教室で出席をとります!
「雨井時雨さん。」
「枝戸康太くん。」
「大方美代理さん。」
音量や声質は違うものの、それぞれが返事をしていく。
「上條芹佳さん。」
それが止まったのが、こいつの時だった。芹佳の返事がない。なんで? 芹佳の席を見ると、芹佳は呑気にあくびをしていた。
芹佳ぁぁ! あくびしろ~! …じゃなくて…返事しろぉぉぉ!
わたしの声が聞こえたのか、芹佳が振り向いた。わたしに気付くと、満面の笑みでピースしてきた。なにしてんの? 芹佳…。
わたしは口をパクパクさせて、『返事、返事!』と言う。
「…尚咲さん? なにふざけてるの?」
「…あ。」
いつの間にか先生がわたしのそばに来ていた。そしてふざけていると思われたわたしは、たっぷりとお叱りを受けたのであった。


「…それでは出席を続けます。上條さんはいますか?」
「はい。」
ここでやっと芹佳が返事をしてくれた。まったく、誰のせいでこんなことになったんだか。


ここからは順調だと思ってたんだ。…でも、運命はそんなわたしの期待を無惨にも打ち砕いた。
「次、清海さん。清海音芽さん。」
ん? 清海? …きようみ? …わたし、その名前聞いたことあるような気がする。どこで聞いたんだっけ? うーん…出て来そうで出て来ない。まぁ、そのうち思い出すはず。きっと、ね。


どれくらいの時間が経ったのかな。気が付くと、わたしは校門の前に立っていた。ここにいるのは、わたしと芹佳と…あれ? なんで芹乃がここにいるんだ?
「やっほ~、露希ちゃん。芹乃もお祝いに来たよッ。入学おめでとー!」
袋にいっぱいのビー玉をもらった。…え、なにに使えと?
「あ、そうだ…。」
芹佳が鞄を探り、可愛くラッピングされた袋をわたしに見せた。
「はい! 入学のお祝いだよ♪って、わたしも同い年だけど(笑)」
入学祝いってことは、やっぱり文房具とかかな? …もしそうだったらもしかしてプレゼントかぶってる…? いやいや。そんな偶然あるはずないって。
「ありがとー。家に帰ってから開けるね! ところでわたしも芹佳にプレゼントがあるの。入学祝いだよッ。」
鞄に入れてずっと持ち歩いていた袋を芹佳に見せる。
「わ~。ありがとね! 一生大事にする♪」
そう言うと芹佳は、嬉しそうに袋をぎゅっと抱き締めた。




by wck-news | 2011-05-24 00:00 | 知花さんの小説『想い出』
☆初めての方は、「連載のご挨拶」もあわせてお読み下さいね。

『バシャン!』
「ひえ~。びっしょびしょ!」

わたしが水たまりで転んだ時、周りの人達はみんな見て見ぬ振りをしていた。でも、あの子だけは違った。わたしの想い出…。

「芹佳ーっ! 早くおいでよ~!」
ある晴れた土曜日。金曜日には雨が降り、地面には幾つもの大きな水たまり。わたしと芹佳はここで足をパシャパシャさせながら飛び跳ねて遊ぶのが大好き。そんなわたしは尚崎露希。おませさんにはほど遠く、ちょっと子供な小学4年生。この日は、近所に住む昔からの仲良し、上條芹佳と追いかけっこをしていた。
「あははっ! 芹佳ってば、遅~い!」
後ろを向いて、のこのこ走る芹佳を見ながらわたしは小走りしていた。その時、
「あ! 露希ちゃんっ!」
芹佳が慌てた様子で前を指差す。わたしは芹佳のその動作を気にも止めず、
「え~? なぁにぃ? もう帰るのぉ?」
…と、呑気に口走っていた。今思えば恥ずかしいことだ。いつものように、どうせ芹佳の家の門限の時間になって帰ろうとしているのだと当時のわたしは思った。芹佳の家は門限が5時。わたしはまだまだ遊びたかったのに。うちには門限なんてものが存在しなかったから、遊び疲れるまで遊ぶことができ、当然ながら宿題をすることなくベッドへ直行。そのまま朝まで爆睡し、宿題を忘れたまま学校へ行く。その繰り返しだった(芹佳がちゃんとしてきてたから、よく写させてもらってたなぁ…。って、今もか?)。
…ともかく、芹佳が焦っているということに気が付かなかったわたしは、後ろ向きのまま『バシャン!』と水たまりに浸(つ)かってしまった。
「ひえ~。びっしょびしょ!」
わたしが半泣きでびしょびしょに濡れた服を眺めていると、
「大丈夫?」
そんな優しい声がして、上からスッと手が出された。
わたしがその手に捕まると、声の主は思い切りわたしを引っ張り上げた。お陰でわたしは汚い水たまりから脱出できた。
「…ありがとう」
わたしが言うと、その子は
「お礼なんかいいよ。それより、名前を教えてくれる?」
そう言って微笑んだ。
「…露希。尚崎露希」
わたしを汚い世界から連れ出してくれたのは、同い年くらいの女の子。腕も脚もとても細く、心配になるくらい華奢な体つきをしている。ただ、表情はとても明るく、見ているこっちが励まされるようだった。
「尚崎露希て言うんだ? 可愛い名前だね。…露ちゃん…って呼んでいい?」
「いいよ」
そう言うと、女の子はとても愛らしい表情を見せた。見ているこっちが嬉しくなるような美しく清らかな笑顔。

なんて澄んだ瞳を持ってるんだろう。

わたしは初めそう思った。その瞳の奥に隠されている真実を知りもしないで…。
「…露ちゃんって…昔のわたしと似てる気がする。…わたしも、昔は露ちゃんみたいに近所を走り回ってたんだよ。…でも、もうそんなことは…。…もう二度とできないけどね。」
女の子は過去を思い出したのか、懐かしそうに微笑み、そして寂しそうに目を閉じた。
「…あなたは? あなたの名前はなんて言うの?」
見ていられなくなるくらい悲しい瞳。こんなにも幸せそうに笑うのに、どうして彼女はこんな濁った表情を知っているのだろう? 悲しみを知っている人は、時に恐ろしく映る。過去の記憶が映し出す、切ない防衛反応。
「…わたし? わたしは…」
女の子が答えようとした時、邪魔が入った。
「清海さん! こんなところにいたのね! 駄目じゃないの! 勝手に病院を抜け出したりして! さっ、病院に戻りますよ」
看護師らしき人が女の子を引っ張ろうとする。
「…もう、戻らない」
女の子は小さな声でそう言った。
「あなたは外出許可をもらえないんだから、勝手に外に出てはいけませんよ。」
彼女の声が聞こえたのか聞こえなかったのか、看護師は女の子にそう言い聞かせている。
「…わたし…は…少しだけ外の空気を吸ってみたかっただけなのに…。…どうしてそれさえ許されないの…!?」
悲痛な訴えもままならず、女の子は車に乗せられ、去っていった。
女の子になにか伝えたかったのに、悔しさと悲しさ。無力さを味わわされたわたしは、
「さようなら! またね!」
…としか言えなかった。

『ガー』
車の後部座席の窓が半分ほど開き、そこから女の子の顔が覗く。
「またいつか会おうね! バイバイ…!」
声を振り絞って言う女の子。
そのまま車は見えなくなっていった。

…清海音芽…か。…綺麗な名前。
…また会えたらいいな…。

…音ちゃん。なんて、聞き覚えのある名前で呼んでみる。なんだか親しみを感じられる。…あの子、ずっと病院に居るのかな。病院を抜け出したくなるくらい長い時間を病院で過ごしているの? 外出許可がもらえないって、いつまで? ずっと? 永遠に? あんな風に音ちゃんの感情を無視して病院で一生を過ごすの? 過ごさせるの? …そんなのだめだよ。
…早くあの子が元気になって、誰の許可もとらずに外に行けるようになれますように。

そう願わずにはいられなかった。

「露希ちゃ~ん!」
芹佳の声だ。あれ? そう言えばさっきまで見てなかったな。
「芹佳、今までどこ行ってたの?」
わたしの質問に芹佳は、やだな~と笑ってこう言った。
「わたしが(走るのが)遅いのは、露希ちゃんもよく知ってるでしょ? 何年心友やってると思ってんの? …あ、そだ。露希ちゃん、今日ちょっとうちに寄ってってよ。渡したいものがあるんだ♪」
渡したいもの? ふぅん。誕生日はもう少し先なんだけどな…。

「あっ! 露希ちゃんだ~! やっほ~!!!」
「お~、芹乃! 久しぶり~」
芹佳の妹・芹乃。今年小学校に入学したばかり。芹佳とは3歳違いなんだよね。
「露希ちゃん、お待たせ~。はい、これ」
渡されたのは、真っ白い紙袋。[ルーチェ]って書いてある。ルーチェってたしか有名な宝石店だったよね。けど芹佳がわたしに宝石? いや、有り得ない。まだ宝石になんて興味ないですよぉ~。
…ほんとにこれ、いったいなんなんだろ?
「…なに? これ」
わたしが聞くと、芹佳は紙袋をガサガサさせ、中身を取り出した。手には、大きな正方形型の箱。
「びっくりした? ルーチェは全然関係ないんだけど、これ、フルーツゼリーの詰め合わせなんだ。毎年パパの部下か上司かが送ってくれるものでね。内容が毎年変わって面白いの! たしか去年はいろんなクッキーの詰め合わせで、一昨年は上等なお茶だったんだよ~。凄く美味しかった! あ、たまに露希ちゃんも来て一緒に飲んでたよね。で、その前の年は…」
「芹佳! も、もういいよ!」
慌てて芹佳を止める。このままじゃ、上條家がもらった詰め合わせの歴史が語られ続ける~(汗)。わたしはそこまで詳しくなる必要ないからね…。
「そお? じゃ、そろそろこの辺で。上條家ってみんなゼリー苦手だから、露希ちゃんがもらってって? 露希ちゃん、ゼリー好きでしょ? 苺とかぶどうの粒(?)もゼリーの中に入ってるんだってよ。有名店の限定品らしいけど、なにもゼリーじゃなくてもねー。いや~、それにしても露希ちゃんがもらってくれて助かったよ。高級らしいから捨てるのも悪いし、それにちょっともったいないから…。賞味期限短めだから早めに食べてね! あ、でもわたしが露希ちゃんの家に遊びに行った時にゼリーを出すのはカンベンだよ」
そう言いながら、芹佳はルーチェの紙袋をわたしに預けた。
                                                 つづく




by wck-news | 2011-04-24 00:00 | 知花さんの小説『想い出』

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