人気ブログランキング |

ウィメンズカウンセリング京都          ☆スタッフblog

wcknews.exblog.jp
ブログトップ

『想い出』(4) ~知花さんの小説

☆初めての方は、こちらもあわせてお読みくださいね。
⇒⇒⇒「上村知花さんの小説連載のご挨拶(井上摩耶子)」
⇒⇒⇒「上村知花さんのエッセイ連載のご挨拶(井上摩耶子)」


時は7年前に遡る。わたしが小学1年生になった頃。大きく変わった環境に戸惑い焦るわたしに遊び仲間はいなかった。
『あーあ…』
楽しそうに遊ぶ同い年の芹佳達を見て思わず湧き出る暗い溜め息。
『どうしてみんなと遊ばないの?』
いつの間に来たのか音もなくそばまで寄ってきた乙ちゃんに訊ねられた。
『だって…わたし、みんなと遊ぶより一人でいる方が好きなんだもん』
嘘だった。ほんとはみんなと遊びたかった。でも自分からあの中に入っていけず、黙って見ているしかないのだ。
『ふぅん…ほんとに?』
聞き返されたことに驚いてわたしは乙ちゃんの方を向いた。それを見た乙ちゃんはクスリと笑った。
『嘘吐き。ほんとはみんなと一緒に遊びたいくせに。わたし、知ってるよ。露ちゃんの素直になれないその気持ち。…露ちゃんがどれだけみんなと遊びたいか』
ずばり言われて答えられない。この子は誰? どうしてそこまでわたしの気持ちが分かるの?
『この前露ちゃんの絵を見たんだ。あれ、ここのみんなの絵だよね。みんなで楽しそうに遊んでた。わたしも露ちゃんも芹佳ちゃんも。みんな仲良しだったね。みんな笑顔だった。露ちゃんて絵上手いよね。…それに…』
言いかけて乙ちゃんは草がぼうぼう生い茂る場所に寝転がった。なにしてんの!? と思った。
『それに…露ちゃんが人一倍優しいってこともわたしは知ってるよ』
優しい? わたしが?
『違うよ! わたしは優しくなんかない! わたしは芹佳ちゃんみたいに席を譲れないし、道を教えられないし、探し物を探してあげることもできない…そんなわたしのどこが優しいって言うの!? 慰めならやめてよ!』
すると乙ちゃんはいつになく真剣な顔をして言った。
『露ちゃん。目に見える優しさだけが優しさじゃないんだよ…。露ちゃんの優しさはそんなものじゃない。そんなに小さくない。露ちゃんは困ってる人がいたらあれを手伝いたい、これをしてあげたいっていろんなこと考えちゃうんだよね? 露ちゃんの優しさは大きすぎて全部はできないんだよ…露ちゃんはなにを優先すべきなのかを迷ってしまうからなかなか行動に移せないだけなんだよね? わたし、そんな露ちゃんが好きだよ。何事にも一生懸命な露ちゃんが大好き。…芹佳ちゃんが羨ましい気持ちは分かるよ。でもそんな気持ち、他の誰かも露ちゃんに対して持っているかもしれないよ。もしかしたら芹佳ちゃん自身もそんな風に思っているのかもしれないね、露ちゃんと変わりたいって…。露ちゃんは気付いていないだけなんだよ。周りを見てばかりいると疲れちゃうしバテちゃうよ。たまには自分も見て自分自身を褒めてあげようよ。露ちゃんは他の人と変われない。露ちゃんは露ちゃんでしかいられない。けどそれはみんな同じ。わたしだって芹佳ちゃんだって露ちゃんとは変われないもん。露ちゃんは世界にたった一人だけ。どんなに露ちゃんに似てる人がいたとしても、それは露ちゃんじゃない。全然別人なんだよ。それを分かってね…』
乙ちゃんはそう言って立ち上がりパタパタとどこかへ走り去っていった。その翌日、先生に乙ちゃんは引っ越したと聞かされた。その時のショックは計り知れないもので、家に帰ってから大泣きしたことを今でも覚えている。

「あの~、おばさん。わんちゃんを探しているんですよね? わたし、手伝います!」
我に返るとすでに芹佳がおばさんのところに行っていた。
「あらまぁ、それはありがとう。でもねぇうちのポチは…」
言いかけておばさんは芹佳の抱いている猫を見て叫んだ。
「ポチ!」
ポチ? わたしと芹佳はびっくり。この猫がポチだったなんて…。
「見つけてくれてありがとうねぇ。実はこの子がうちのポチなのよ。今時間あるかしら? お礼をさせてちょうだい」
「そんな! い、いいですよぉ! ね、露希ちゃん?」
「はい。わたし達、そんなつもりで探したんじゃないし…」
わたし達は必死に遠慮した。そして観念したのはおばさんの方で、それなら仕方ないわね…と言い何度も振り返って礼をしながら帰っていった。
「ねぇ芹佳。芹佳は…その、わたしのこと羨ましいなぁって思ったこととか…ある?」
芹佳はきょとんとして目をぱちくりさせた。そしてこう言った。
「露希ちゃんたら、なに言ってんの? そんなのあるに決まってるじゃん! 露希ちゃんて一人でも楽しそうだから本当に羨ましかった。小学生の頃からずっと羨ましかったんだ。今そんな露希ちゃんと仲良くなれて、わたし、本当に幸せだよ!」
いや…あれはただのやせ我慢で…なんて本音は言わない方がいいかな。少し気分が良くなって軽やかに歩き出す。今思うと、乙ちゃんはわたしを励ますために天使が乙ちゃんになって助けに来てくれたのかもしれない…。
「あ~! 露希ちゃんっ!」
芹佳が叫ぶ。
「へ? なに?」
芹佳は口をパクパクさせている。言葉が出てこないようだ。
「か、か、階段! 落ちちゃうよ! 止まって~!」
ガタガタガタ~ン! また芹佳の言うことを聞かなかったから痛い目見ちゃった。
「露希ちゃんっ! 大丈夫?」
芹佳が慌てて駆け寄ってくる。
「これくらい平気だよ~。芹佳、大げさ~」
そう言って立ち上がろうとしたんだけど、足が痛くて立ち上がれない。
「もしかして露希ちゃん、骨折しちゃったのかも…。段数多かったもんね。病院でちゃんと診てもらった方がいいかな。学校ももう終わったし、露希ちゃん家に電話して迎えに来てもらお。その足じゃ家まで戻れないだろうから、わたし電話してくるね。公衆電話で☆ あっ、お財布忘れた」
大丈夫か…? 財布を忘れる芹佳に不安を抱く。
「てかそれ無理だから。うち共働きだし。言ってなかったっけ?」
ぽかーん。口を開けっ放しにして呆けている。
「そ、そっか。そういえばそうだったね。じゃわたしの親に来てもらおう! うちなら共働きじゃないから大丈夫」
そして芹佳は近くの公衆電話へ向かった。あちこちの人に場所を聞きながら。
芹佳がいてくれてよかった。わたしは素直にそう思った。…それにしても足が痛い…。

「芹佳! 露希ちゃんは!? どこ!? 無事なの!?」
すぐに芹佳のお母さんが車でやって来た。心配性なようで他人の家の子のためにわざわざ車で。しかもパワフルだ。優しそうな人だが見ていればすぐに分かる。
「あっ露希ちゃん、早く車に乗って! 一刻も早く良いお医者さんに診てもらわないと! 前に院寺総合病院がいいって聞いたわ。たしか名医がいるらしいからそんなケガ一発よ! 診察料が不親切なのが嫌だけど…そんなものどうだっていい!」
車を飛ばしあっというまにわたしは病院の診察室へ。
「これは…骨折ですね」
レントゲンをパシャパシャ撮られ、一息ついてすぐに告げられた衝撃の一言。これまで大きなケガには無縁だったこの露希ちゃんが骨折!?
「それもかなり複雑な骨折なので…2、3ヶ月ほど入院して頂くことになりますね」
2、3ヶ月って…1ヶ月の差は大きいぞ(笑)?

「骨折かぁー」
診察が終わり、とりあえず近くにあったソファに腰掛けた。芹佳のお母さんはわたしの両親に入院連絡をしている。
「骨折ねぇ…」
そんなこと言われても珍しすぎて実感湧かないよ。足を見ても肉眼ではそんなの分からないし。
「でも入院って…なんか面白そうなことありそうじゃない♪?」
「もう、露希ちゃんてば…」
そんなわたしを芹佳は呆れたように見て笑っている。
「でもできるだけお見舞いに来るからね」
「うん、ありがと。見舞い品とか安いもんでいいからね」
「請求はするんだ…(笑)」
そんな雑談(?)をしているうちに芹佳のお母さんが帰ってきた。またみんなで1時間ほどお喋り。と、いつの間にかほんのり外が暗くなってきていた。そろそろ帰らなきゃと名残惜しそうだったがそろそろ別れの時間。
最後に芹佳は頑張ってね! と声をかけた。わたしはそれを苦笑いで受け取り、そして上條親子は帰っていった。
…わたしの苦笑いの裏にこんな思考があった。
頑張れって…医者が? それとも頑張るのは足なのか? 

夜になったら両親が日用品を持って会いに来る。さてそれまでなにをしようかな~。暇だ。いつも遊んだりゲームしたり(勉強は選択肢にはございません)してたからこんなに退屈するのは久しぶり。
あ、なんか突然睡魔が襲ってきた。することもないし、ここは素直に従うことにしよう。じゃ、おやすみ~。

つづく



by wck-news | 2011-08-11 00:00 | 知花さんの小説『想い出』

フェミニズムの視点にたった女性のためのカウンセリングルーム、ウィメンズカウンセリング京都のスタッフブログです。最新の講座情報やスタッフの雑感などをお届けしています!


by WCK-News