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『想い出』(5)~知花さんの小説

☆初めての方は、こちらもあわせてお読みくださいね。
⇒⇒⇒「上村知花さんの小説連載のご挨拶(井上摩耶子)」
⇒⇒⇒「上村知花さんのエッセイ連載のご挨拶(井上摩耶子)」


わたし、尚崎露希が入院して一週間が過ぎた。その辺をうろちょろすることもできないし、かと言って病室にも遊ぶものがない。病院って…暇だなぁ~。まだ3日だが、すでにわたしは退屈を知っていた。
「やっほ~♪」
そこに来訪者が現れた。どんな来訪者でも暇な病院ではありがたい。
「芹佳~! 来るのが遅いよ~。忘れられたかと思っちゃったじゃ~ん」
芹佳とわたしは心友なのに、この一週間一度もお見舞いに来なかったの。ひどいよね。
「やはは~、ちょっと用事があって…ごめんね?」
芹佳が胸の前で手を合わせて謝る。
「露希お姉ちゃん! プリントの答え合わせして~!」
えっ? 露希ちゃんに妹がいたの? 初耳なんですけど…しかもわたし、会ったことないし。
「あっ、結理恵~。…と後ろにいるのは都絆菜じゃん! てことはぁ、謝る気になったのかな~? こっちが正しいって認めたのかな~?」
意地悪く笑う露希ちゃんを見て、わたしは思った。…なんだか違うみたい。
「ふん! 誰が!」
都絆菜ちゃん(とさっき呼ばれていた子)がぷいっと顔を背ける。
「露希ちゃん…この子達は…?」
わたしの声にやっと露希ちゃんがこっちを向いた。
「そっか、3人は初対面だっけ。紹介するね、こちらわたしの心友の上條芹佳。で、こっちの好印象な子が都築結理恵」
結理恵ちゃんがペコリと礼をした。そして顔を上げてにっこり笑う。
「あれ…? 結理恵ちゃん、歯が…?」
結理恵ちゃんの前歯が2本ない。
「わたし、こないだ歯が抜けたの。見て、これ」
結理恵ちゃんがわたしに見せたのは小さな袋に入った2本の歯だった。
「わたしの宝物」
そう言って結理恵ちゃんはまた笑った。…歯の少ない口で。
「そんでこっちの気の強いのが飛来都絆菜」
露希ちゃんが紹介するけど、当の都絆菜ちゃんはなにも言わずにどこかへ行ってしまった。
「まだだめかぁ」
意味ありげにそう言う露希ちゃんにわたしは訊ねた。
「露希ちゃん…あの子となにかあったの?」
「…ちょっと喧嘩しちゃって」
困ったように溜め息をつく。
「喧嘩?」
露希ちゃんは筆箱から赤ペンを取り出した。そして思い出したように結理恵ちゃんに渡されたプリントの答え合わせを始め、そのまま話し出した。
「そう、喧嘩。実はねー、この病院で毎月誕生日パーティー…とまではいかないけどそんな感じのことはするらしいのね? それで今月はわたしと結理恵と都絆菜がその実行委員をすることになったんだけど…ことあるごとにわたしと都絆菜が衝突してさ…それで今みたいになったのよ」
…大人気ないよ、露希ちゃん。相手は子供なのに。
「まったく子供だよねー、都絆菜ったら! ほんと参っちゃうよ。…わ! 結理恵! 今回全問正解だよ! 凄いね! おめでとう!」
露希ちゃんはまるで自分のことのように喜んでいる。そんな露希ちゃんの言葉に結理恵ちゃんは、
「やったぁ! 初めて全問正解した~!」
…と万歳を3回して喜びを表していた。…露希ちゃんて、子供の扱い上手いんだなぁ。でも露希ちゃんは昔からそうなんだよね。人の幸福を自分のことのように喜んで、人の不幸を自分のことのように涙を流して悲しむ。そういえばわたしの時もそうだったなぁ…。
「芹佳ー! 一週間もお見舞いに来なかったお詫びに買い物行ってきてよ。この紙に書いてあるの全部! 一階に売店があるからよろしくね☆!」
露希ちゃんはわたしの手にメモを一枚握らせ、背中(わたしの)を押しだした。
「え…ちょっ…露希ちゃん?」
まったく露希ちゃんは強引なんだから。…それも昔から変わってないなぁ。


一階の売店に来ると都絆菜ちゃんが店の前をウロウロしているのが目に入った。
「都絆菜ちゃん?」
声をかけると都絆菜ちゃんはわたしの方へ来た。
「…芹佳…って言うんでしょ? あんた」
「う、うん。まぁね」
呼び捨てされた…しかもあんた呼ばわり。
「そっかぁ…」
都絆菜ちゃんは近くにあった椅子に腰掛けた。
「どうしたの? 売店でなにか買いたいものでもあった?」
わたしが訊ねるとちょっと考えてから都絆菜ちゃんは話し出した。
「…今月はチーコの誕生日もあるからチーコの好きな花をいつぱい飾って誕生日を祝いたいの」
「…」
わたしはその話を聞いてはいたが、内容はよく分からなかった(突然話し出されたし。てゆーかその前にチーコって誰…?)。
「そ、そうなんだ。都絆菜ちゃん、優しいのね。きっとそのチーコちゃん(?)も喜ぶよ」
「でしょ? あたしもそう思う」
途端に笑顔になる都絆菜ちゃん。…こういうのを自画自賛って言うんだっけ? なんだか可愛げがないなぁ。いや、顔はかわいいんだけどね?
「…でも、露希が反対するの」
都絆菜ちゃんがしょんぼり俯いて呟いた(てか露希ちゃんも呼び捨てなんだ…)。
「どうして…?」
わたしはとても不思議に思う。露希ちゃんは子供の純粋な夢を潰そうなんてひどいことをするような子じゃない。それは心友のわたしが一番よく分かっている。こんなかわいい提案、露希ちゃんなら笑顔で賛成してもいいのに…どうして?
「…毎月の誕生日の実行委員が提案したアイデアはたいてい通るけど、通るための条件が一つだけあるんだ。それは実行委員全員がその提案に賛成すること。みんなの気持ちが一つにならないと誕生日パーティーも楽しくならないからって希美花ちゃんに言われたの」
「希美花ちゃん…って?」
「希美花ちゃんはこの病院の看護師さんだよ。田沼希美花ちゃんていうの。すっごく優しいお姉ちゃんで、病院の人み~んな希美花ちゃんのこと大好きなの!」
「そうなんだ~。人気者なんだね」
…てあれ? 田沼希美花ってどこかで聞いたような…でもどこでだっけ?
「もしかして希美花ちゃんのお母さんもここで働いてるの?」
「そうだよ。希美花ちゃんのママはすご~く怖いんだ。チーコも結理恵も怖がってて、お薬の時間に希美花ちゃんママが来たらおとなしくお薬を飲むの。お薬苦くて嫌いだけど、あの人はもっと怖いからって。あたしは全然怖くないけどね」
都絆菜ちゃんが胸を張る。親が怖いのか…じゃあやっぱり田沼ってあの…。
「都絆菜ちゃん、こんなところにいたのね。みんな心配してるのよ、私と一緒にお部屋に戻ろう」
一人の看護師さんが迎えに来た。
「お迎えが来たみたいだね。…都絆菜ちゃん。露希ちゃんは都絆菜ちゃんが思ってるような人じゃない。それはわたしが断言する。自信を持って言えるよ。だってわたしは露希ちゃんの心友だから。チーコちんのことも、きっとなにか理由があるはず。後で露希ちゃんに聞いてみるね。本当のことを知ったら真っ先に都絆菜ちゃんに知らせるから」
「…期待しないで待ってるよ」
最後に都絆菜ちゃんは鼻で笑ってそう言い病室に戻っていった。…つくづくかわいくない。&子供らしくない。…あ、わたしもそろそろ戻ろ。…てかなんでここに来たんだっけ。手を動かすとクシャという音。見ると中にはボロボロの紙。
「あ…!」
忘れてた。買い物頼まれてたんだった。早く買って戻らなきゃ。えーと、赤ペンとカチューシャと…って露希ちゃん、カチューシャなにに使う気? カチューシャつけるの嫌いなくせに。カチューシャなんか売ってるわけないじゃないかーーー!!!
しばらくそこには芹佳の叫び声が響いていた。
by wck-news | 2011-09-05 00:00 | 知花さんの小説『想い出』

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