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『想い出』(6) ~知花さんの小説

☆初めての方は、こちらもあわせてお読みくださいね。
⇒⇒⇒「上村知花さんの小説連載のご挨拶(井上摩耶子)」
⇒⇒⇒「上村知花さんのエッセイ連載のご挨拶(井上摩耶子)」

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「あ、芹佳ー。遅かったじゃん、なにしてたの?」
「あ、思ったより買い物に時間がかかって。あの、それより都絆菜ちゃんのことだけど…」
「え?  都絆菜がなにかしたの?  ごめん!  わたしから叱っとくから許してやって」
露希ちゃんはそう言ってわたしに手を合わせた。
「許すもなにも…都絆菜ちゃんは露希ちゃんに叱られるようなことなにもしてないよ。ただ、ちょっと聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと?」
小首を傾げ露希ちゃんはわたしを見た。
「…都絆菜ちゃんていい子だよねー。子供らしくないけど、凄く友達想いで」
「でしょ~?  都絆菜って、気は強いけど実はいいヤツなのよー」
そうやって露希ちゃんは屈託のない笑顔を見せた。
「さっき買い物に行った時都絆菜ちゃんに会ったんだ。…そこで全部聞いちゃった。ねぇ、露希ちゃん。わたしは都絆菜ちゃんの提案、いいと思うんだけど、どうして反対しているの? あと、チーコちゃんって誰…?」
「チーコってのは結理恵と都絆菜の友達で小三。二人と同じ入院仲間で…あ、ちなみに本名は杜若知依子ね。…そりゃわたしだって都絆菜の提案には大賛成だった。もちろん今も変わってないよ。…だけど、それはできないんだよ…」
「どうして…?」
わたしは露希ちゃんの表情が曇っていたのを知りながらそれを問い質さずにはにはいられなかった。
「毎月誕生会は十五日にするの。一日と三十日の間ってことで。もちろん今月もね。…小三軍団はあの三人しかいなくて遊ぶ時はいつも三人きりだった。まぁお陰で絆は大分深まってるけどさ。…でも今月の十四日にチーコは退院しちゃうから、ちょうど誕生会には参加できないの…」
『バサッ!』 紙が床に落ちる音がした。
「え? なんの音?」
「分かんない。さっきの音、ドアの向こうからしたよね…ドア開けるよ?」
『ガラガラ…』
静かにドアを開けそこに立っている人物を見た時、わたし達は思わず息を飲んだ。
「結理恵…!」
「結理恵ちゃん…!?」
同時に叫ぶわたしと露希ちゃん。なんとそこにいたのは結理恵ちゃんだった。
「…ちーちゃんいなくなっちゃうの…?」
わたしは慌てて床に散らばった紙(プリント)を拾う。そして露希ちゃんは慌てて弁解する。
「ゆ、結理恵…今の話はなんでもないから黙っといて? ね?」
「都絆菜ちゃんに知らせなきゃ…!」
幼い我が子を諭すような形で説得を試みるも失敗。露希ちゃんの言葉にも耳を貸さない結理恵ちゃん。
「結理恵ちゃんっ! ちょっと待って!」
わたしは急いで結理恵ちゃんの先回りをして病室の扉を閉める。
「どうして? どうしてだめなの? どうして都絆菜ちゃんに教えちゃいけないの? わたし達、ずっと一緒だよって約束したんだよ? ちーちゃんがいなくなっちゃうの嫌だもん。都絆菜ちゃんにも教えて二人で止めるの…!」
この騒ぎを聞き付け登場したのは希美花ちゃん。なぜか片手に紙袋を持っている。
「どうしたの!?  結理恵ちゃん、落ち着いて。話は露希ちゃんから聞くから、結理恵ちゃんは部屋に戻りなさい。後でじっくり分かりやすく説明するから。この騒ぎのことは都絆菜ちゃんや知依子ちゃんには言っちゃだめよ。言ったら二人共結理恵ちゃんのこと心配しちゃうから。ここにいる子達はみんな身体のどこかに悪いところがあるの。それは結理恵ちゃんもよく知ってるでしょう? だから余計な心配させないようにしてあげて。辛いだろうけど、このことはひとまず結理恵ちゃんの胸にしまっておいて」
希美花ちゃんの必死の説得に結理恵ちゃんも納得したようだ。素直に頷いて病室へと戻っていった。
「た…助かったぁ。ありがと、希美花ちゃん」
「じゃ、なにがあったのか一連を話してもらいましょうかね。嘘はだめよ。正直にすべてを話すこと。大丈夫。私はあなた達の味方だから。ね」
そう言い希美花ちゃんは院内全体を穏やかに包むように微笑んだ。





「…そんなことがあったの…そりゃ驚くわよねー。それはともかくどうして小三軍団がいないかどうか確認しなかったの?  だめじゃない。あの子達は好奇心旺盛だから、いつどこにいるか見当もつかないくらいなのよ?  だから気を付けなきゃ!」
「…はい。田沼看護婦の言う通りです。迂闊でした…」
そう言いしゅんとうなだれて見せる露希ちゃん。
「そもそもどうして結理恵ちゃんがいたの?」
「はい。それはさっき露希ちゃんが渡したプリントを攻略して再度持って来たからです。三枚ほど」
「四枚ね」
どうでもいいことに口を挟む露希ちゃん。
「てかなんかそれわたしのせいみたいー! まぁ実際その通りなんだけどー」
え。今更? (笑)
「じゃあ整理するとこういうことね?  芹佳ちゃんは都絆菜ちゃんと話をしたものの腑に落ちない点があり、露希ちゃんに詳しく話を聞いた。そこに偶然結理恵ちゃんが来て、聞いてしまったと」
「わー。希美花ちゃん、凄い! カンペキ!」
「その通り! まさにそんな感じ!」
「でしょ? 国語は昔から得意科目だったのー」
「ああ…道理で」
ふいに露希ちゃんが遠くを見るような目をして納得した。
「なにが?」
「国語が得意=文系=理数が苦手=暗記が不得意=学ばない=失敗しまくる。結果、婦長さんに怒られる常連さんに」
「長い!  長いよ、露希ちゃん!!」
覚えられないよ~! …覚える必要はないんだけど。
「てか婦長さんてそんなに怖いの?」
「怖いよ~。米沢博子(よねざわひろこ)って言うんだけど…患者にも厳しいし、看護婦にはもっと厳しい。ミスをした人は容赦なく叱り飛ばす。たとえそれが入ったばかりの新人でも」
「へ~」
「これが、魔女・ヨネザワーと呼ばれている所以でございます」
「そんな風に呼ばれてるの!?」
「いや、嘘だけど」
「嘘かい」
「…まぁ、タヌマチコと同じくらいの怖さかな」
「タヌマチコ?」
「うん。ほんとは田沼眞千子(たぬままちこ)ってんだけど、なぜかタヌマチコって呼ばれてる。ついでに希美花ちゃんのお母さん」
「またまたー。それも嘘でしょ?」
「いや、これはほんと」
「ふーん?」
…ほんとかなぁ。なんて、少し疑いを持ってみる。
「てか希美花ちゃーん。何度言われても覚えらんないなんて歳なんじゃないのー? ハタチなんて嘘でしょー」
「違う! 本当に二十代なの!!」
必死になる希美花ちゃん。なんだかかわいいな。でも…。
「…あのさー。そろそろ真面目になろーよー」
わたしは自分達が脱線し過ぎていることに気が付いた。このままじゃいつまで経っても話が終わらない。
「あ、そ、そうね」
「…。なんの話してたっけ?」
「覚えてないの!?」
…とか言いつつ、実はわたしも覚えてませーん。


十分ぐらい考えてたら、ようやく露希ちゃんが思い出した(長すぎ?)。
「思い出したぁぁー!!!」
「おお!」
「お手柄ね!」
わたしも希美花ちゃんも急ぎ足で露希ちゃんのベッドに駆け寄る。
「露希ちゃん。なんだった?」
「うん…」
露希ちゃんは神妙に頷いた。そして慎重に口を開いた。
「でも実はわたし、それよりも大事なことを思い出してしまったのだ!!」
「大事なこと?」
「そう! それは…」
「それは?」
気付けば完全露希ちゃんのペース。これも露希ちゃんの持つ人を引き付ける才能なのだろうか。
「今日は牡丹餅の日だったーーー!!!」
「…は?」
想定外の、また意味不な露希ちゃんの発言に一気に熱を帯びていた体温が下がる。
「ああ、そう言えばまだだったわね」
「希美花ちゃん、知ってるの?」
「もちろん。だって私が発案者だもの」
「発案者?」
『牡丹餅の日』の…?
「それについてはこのわたし、露希教授が教えよう!」
「はいはい。んじゃ、あいさつとかいらないから解説だけよろしく!」
「バレてましたか…。じゃあ、不肖ながら私のごあいさつをお聞き下さいまし」
「それもお・ん・な・じ!! しかも単に語がついただけじゃん!」
「じゃあおあいさつ…」
「いい加減にしなさい!」
「…じゃあ解説します…」
ちょっと厳しくし過ぎたかな? 小さくなっている露希ちゃんを見てそう思った。
「牡丹餅の日とは! 一日に一回牡丹餅を食べる機会が与えられる日のことなのです!!」
…全然懲りてない。頭の切り替え早過ぎ…。てか一日一回って結局毎日ってことだし!!
「…毎日…だよね。毎日食べてんの?」
「そう! 大好きな牡丹餅を食べられず日に日に痩せていく露希ちゃんを見ていられなくて、私がこの制度を作ったの!!」
答えになってない。てか日に日にって…そもそも四日で痩せるわけないし。しかも牡丹餅の禁断症状なんて有り得ないし。あと、どう考えても『牡丹餅の日』は制度じゃないと思う。
「ああ…牡丹餅のことを考えて頭が働かなくなってきた…。牡丹餅が食べたくて知力が出ない…」
アンパ○マンか。それにしても、牡丹餅がないと力(頭の)が出ないなんて情けないヒーロー。まぬけすぎだよ…。
「じゃ、買ってくるわねー」
希美花ちゃんが病室を出て行く。
「…て、希美花ちゃん行っちゃったけど、近くで売ってるの?」
「売ってるよー。病院のお向かいのお店で」
近!! …そんなのあったっけ?
「お餅屋さんじゃなくて和菓子屋さんなんだけどね、店名がかわいーんだー。『cousin』て言うの」
英語とは…和菓子に似つかわしくないなぁ。しかもcousinて…いとこ…だよね。なぜいとこ?  そしてどこがかわいい!?!?  うーん、わたしと露希ちゃんじゃ感性が違うのかなぁ…よく分かんないや。てか牡丹餅の話してたらわたしまでお腹が空いてきてた。希美花ちゃん、早く帰って来てーーー!!
(続く)
by WCK-News | 2011-11-19 00:00 | 知花さんの小説『想い出』

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