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『心の音』(13)~知花さんのエッセイ

☆初めての方は、こちらもあわせてお読みくださいね。
⇒⇒⇒「上村知花さんの小説連載のご挨拶(井上摩耶子)」
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篭の鳥

どこに行くにも僕はいつもおいてけぼり。窮屈な部屋(おり)の中、薄汚れた羽を一切れひとさしちぎっていく。飛べない羽で冷えた体をごまかしていく。自分を殺している今を見て。ねぇ、本当に僕は生きているのかな…?

体のどこかが壊れてないと、いまいち生きてる感じがしない。気付けばいつもあちこちにあった痣とか切り傷とか火傷の痕とか、今になってそれがないと知り半狂乱に皮膚を掻きむしった。痛覚が鈍り腕を抓ってもなんら痛みは感じない。それでも生の実感が欲しかった。本来よりもキツくベルトを閉め、着座時には常に腕や足をペンで刺しておく。少しだけ痛いけど、それでも僕は生きてるよ。やっと痕がついた。よかった、僕は人形じゃない。
篭の鳥は閉ざされた空間から逃げ出し、新たな世界を望み羽ばたいた。けれど思っていたほど現実は甘くはなくて、過去に受けた傷の後遺症もひどかった。前を向くたび過去の足枷が邪魔をする。幸せになろうとするたびいつもそれを阻まれる。悪意とか殺意とか、目に見えなくてもそれは確かに存在する。そしてそれに侵された生き物の絶え間無い疑心…過度な防御と閉じた心。僕は未だ過去のショックで感情が薄い。依然僕の声は乾いてしまっている。十数年逃避旅行に行っていたせいで、現実を受け止めれないでいる。
“ニンゲン”という生物に逆らっちゃいけないんだ。それは何度も耳にしていたし、悟っている節もあった。唯一絶対ニンゲンが正しくて、僕はその隷属種で、だからもちろん反逆なんて以っての外。それでいいと思っていた。なぜならそれが僕の生きる意味だったから。

少し自分の評価が下がっただけで、自分は無意味と思い込んでしまう。ちょっとでも人の視線から外れると、好かれている気がしないと涙を流す。心が隙間で埋まっていく。いつの間にか“好き”まで篭の中に閉じ込められた。僕はもう自由なのに、もう篭はそこにはないはずなのに、今も僕の半身はそこに押し込められているようだ。

肉体的に人と繋がっている時以外の“愛してる”は信用しない。ニンゲンは嘘を吐く。ニンゲンは簡単に裏切る。大前提に、ニンゲンは僕のことを嫌っている。“愛してる”なんてただのお飾りで上辺だけの綺麗事だ。
愛してる
あいしてる
アイシテル
愛、してる?
恋、してる?
愛、してくれてる?
私は今、誰を“愛”してる?
ほら、信じられるのなんて自分だけだ。信頼も責任も僕だけのもの。それらすべてを自身に集約させれば、浅い絆なんて不必要に決まってる。僕は僕しか信じない。必要なのは強さではなく傷付かない心だ。僕はもう傷付くことをなによりも恐れてしまっている。心を閉じて他人を宇宙人と錯覚し、自分以外の全人類を除外した。無意識に脆い殻を作り上げ、ぬくぬくしたその中に潜り込む。拙い出来映えのそれを毎日保護して、帰る場所を“幻想”してる。うん、これでいい。これが正しい。だってこうすればなにも恐れなくて済むんだから…僕はこのままで間違ってない、よね?
きっと僕に確固とした自我があれば惑わされても平気なはず。それ以上に自負があれば惑わされることもないだろう。しかし僕にそれがあるとでも? 自我や自負は過去の自信が礎となり徐々に浮き出てくるものだ。こんな劣等感の塊にそんな高貴なものあるものか。
自身の凄惨な戯曲を実感するたび皮を剥いだ。悲しくなるたび腕を刺した。死にたいと思うたび、わざとぼんやりして車に轢かれるのを待っていた。

不動の精神さえ手に入れば、みんな僕を認めてくれるんじゃないかなぁ。もしかしたらもう傷付かなくて済むかもしれない。でもそれはどこにあるんだ? 果たして今の僕に見つけられるのか? 仮に見つけたとして…僕はその対象に拒否されないか? 「あんたみたいな弱虫にはまだ早い」って暗に拒絶されないか? そうしてしょぼくれて仮宿までとぼとぼ帰ってくるんだ。胸に開いた穴を無理矢理縫い付け、こっそり修繕施しながら。
分かってる。愛されたいだとかニンゲンが嫌いだって言いながら、そこに矛盾ばかり詰まっているということは。不動求ムと言いながら、自分自身が今では一番ぐらついてしまっているということなんて。だけどそんな不安定な僕が、こんな葛には一番お似合いだろう?

自分のことは嫌いじゃないけど、それを肯定する人はいない。だから過半数の意見を信じ、一般的な幸せを実感しようとした。これ以上ないと思っていた痛みが何度も体に突き刺さる。生々しい血が辺り一面に広がり小さな沼を作る。
意味が分からない。こんな努力さえ無視し、世間はやはり僕を嫌う。でも、健気に頑張る僕を自分で否定できるほど、僕の心は萎びてはいなかった。されど自分を肯定できる能力も言葉も持ち合わせてはいない。次第に心は冷たく凍っていった。

「会いたいよね? 君の飼い主にもう一目会いたいよね?」
ある時僕は、悪い顔をした飼い主の友人だという人物に捕まった。飼い主本人は僕を監禁して精神を喪失させたから、僕に近付くことは法的に禁止されている。彼は裁判に携わる人で、なんらかの権力を握っていたようだ。嫌がる僕にしつこく圧力をかけ僕は危うく心折れそうになった。唇噛んで睨みつけ、引っ切り無しに食いかかっても彼は諦めようとはしなかった。ならもうどうでもいいかなぁ…なんて本気で思ってみたりした。

まるで忠誠を誓う重しが今も首に乗っかかってるみたいだ。外せないよ。引っ張るとさらに首が締め付けられるし、切ろうとしたらそれは消えたように見せかける。重しがあるのが現実なのか、重しがあると思うこと自体幻覚なのか、潤んだ瞳が僕の視覚の邪魔をする。鏡に映った僕は死んだ涙で埋もれていた。自分の色が消えている。重しがあろうとなかろうと、僕の姿は鏡には映らない。存在否定されたらもう手遅れなんだ。でも、鏡には映らない僕は…本当は何色を映し出していたんだろう。
人の数だけ色があって、感情の数だけ色彩があって、笑顔の数だけ存在証明は煌めき踊る。僕が自ら放棄した心にはそんな付加価値が寄生していた。絶望的な悲しみには、もれなくそれを吹き飛ばすくらいのハッピーもついてくるらしい。そんなこととは露知らず、目の前の苦痛から逃れるべく僕はあっさり心臓を引きちぎった。もう一度チャンスがあっても、僕は心臓を投棄したのだろうか?

頑張ることに疲れたよ。僕はとうとう言ってしまった。それは単なる言い訳だ。息をして、他人に僕の存在を肯定してもらうためには頑張り続けることしかしちゃいけないのに。

僕はもう嫌なんだ。報われたくない絶望したい。頑張る理由を作るくらいならいっそ全部投げ出してリタイアしたい。サイコロを振って0が出たら飛び込もう。それが出たら飲み込もう。それが出たら吊られよう。それが出たら切り落とそう、飛び降りよう、殴られ野垂れ彷徨って…
そしてそれから死んじゃえばいい。
いや、でもね…
「ここから逃れることは、不可能だから(笑)」
クスクスクス、だってサイコロに0なんて存在しないのに。鈍く澄んだ愛嬌が軽く弾む。過去の私はひどく満足げに微笑んでいた。
疲れた。泣きたい泣けない泣ける場所もない。だって僕には実体がないのだから。それに、泣いているのは僕じゃなくて君の方だろう?
閉じ込めた僕の中に隠れていた本当の“私”。感情を閉ざした僕の中で、私はずっと消えない時間を過ごしていた。過去の同じあの日々を、繰り返し体験し嗚咽に悶えていた。
ここにいた僕は…きっと涙を流した私だったよ…。

嫌だよ私は君に守られてたい。外は怖い。剥き出しの心臓なんてすぐニンゲンに壊されちゃう。私には君という僕が必要だ。やっぱり傷付かない心が第一だ。でも私の中にあった偽者の僕は、泡となって消えてしまった。
終わりだ、もう生きられない。盾がないと次第に私は折れていくし枯れていく。呼吸さえできず、無意味に散っていくことしかできない。所詮篭の鳥は解放されたって飼い鳥なんだ。餌を与えられることしか知らず、自力で生きていくのは不可能なんだ。
でも最後に気付いたよ。これは篭の鳥が見つけた切ない最期の物語。
私はきっとガラクタになるために生まれたんだ。嬲られいびられ放置し廃棄され腐敗し熔かされ消えていくために。きっとそれが私の存在理由。じゃあ今からそれを証明しようか。核融合炉に飛び込んで、存在意義を見極めようか。

あの人から抜け出せても、心は永遠溶けないんだ…。

THE END.
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by WCK-News | 2012-10-10 00:00 | 知花さんのエッセイ『心の音』

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