2010年 12月 01日
15周年記念シンポジウム報告:隠されてきた「女性の貧困」
ウィメンズカウンセリング京都 15周年記念シンポジウム(2010年9月12日実施)
隠されてきた「女性の貧困」
~ベーシック・インカムは希望になるのか~
今夏は例年にない猛暑に見舞われ、思わせぶりの涼風に期待を寄せる中、9月12日ウィメンズカウンセリング京都(以下WCK)設立15周年記念シンポジウムを、(財)京都市女性協会と共催で開催した。
近年、日本社会を覆う閉塞感に「貧困」というキーワードを外すことは出来ない。グローバル化した情報と経済構造の大転換、これによる経済格差の問題、労働の規制緩和などの中で生み落とされてきた「貧困」問題。今回のシンポジウムでは「隠されてきた女性の貧困」の現実に焦点を当て、個人の問題ではなく社会の問題として押し返す力をためるためにその解決策と方向性をテーマに据えた。
◆ 女性の貧困はどのように隠されてきたか
まず、WCK代表の井上摩耶子から、自身の働き方を振り返り、ジェンダー分析を交え、シンポの主旨について説明があった。70年代高度経済成長を支えてきた性別役割分業(男は外で働き、女は内で家事・育児)は、個人の選択による働き方=自己責任であるという考え方で一般化されてきた結果、女性の経済的自立を難しくしてきたこと。結婚生活が継続される事を前提に、時代の要請とはいえ無償労働を担わされてきた事実は、労働政策の誤りであったと指摘した。
しんぐるまざあず・ふぉーらむ・京都代表の寺田まりこさんは、30年間子どもと自分を養うために、NOを言えない請け負いの仕事を強いられて来たが、「BI」があればもう少し人間らしい生活を送れたはず」と、ご自身の窮乏生活を語り、京都市「ひとり親家庭実態調査」や厚生労働省のさまざまなデータを使って、「シングルマザー」が置かれている生活実態を示し、女性の生涯にわたる多様な生き方に眼が届いていない国の政策、人権の置き去りを掘り起こされた。そして、改めて“ベーシック・インカム”(基本所得 / 以下BI)の実現に希望を託した。
◆ 「貧困」とベーシック・インカムの考え方
次に「反貧困ネットワーク京都」事務局長の舟木浩弁護士は、生活保護問題を切り口に、ネットワークの設立、経緯、取り組みについて話された。社会の隅々に追いやられ、見えにくくなっている「貧困」の実情、生活保護をめぐる裁判から、構造的に「貧困」が生み出されている実態は、複合的な問題(DV、アルコール依存、精神疾患、無年金者etc)が絡まっており、幅広い支援活動と関係機関の連携強化が必要であると訴えられ、パーソナルサポート構想を明らかにされた。
続いてシンポのメインテーマであるBIについて山森亨さん(同志社大学)から、パワーポイントを使って解説を受けた。BIが夢物語ではないことを(日本での実現はともかくとして)、先進国における家族関係社会支出の割合、家族給付の国際比較から説明し、憲法25条に触れながら、生存権の保障を欠いている現行の社会保障制度の機能不全を指摘された。「女性の人権」を求めてきたフェミニズム運動が女たちの共通課題として「家事労働に賃金を!」と訴えてきた(ダラ・コスタ著 1986年 インパクト出版会)のだが、あまねく生きとし生ける者の「基本所得」を求めてきた黒人運動(キング牧師の提唱)と、実はジェンダー平等を求めてきた女たちの運動とは地続きであったことを示唆された。
日本におけるBI導入の実現可能性について会場から質問があった。現行のシステムを変えていくには、困難ではあるが、広く「貧困」の実態を可視化させ、生存権の保障を訴えていくことが重要であるという展望を得た。知らないことを望むことは出来ないが、BIという新たな社会保障に少し希望が生まれた。
(上野美代子・WCKニュース第56号より転載)
隠されてきた「女性の貧困」
~ベーシック・インカムは希望になるのか~
今夏は例年にない猛暑に見舞われ、思わせぶりの涼風に期待を寄せる中、9月12日ウィメンズカウンセリング京都(以下WCK)設立15周年記念シンポジウムを、(財)京都市女性協会と共催で開催した。
近年、日本社会を覆う閉塞感に「貧困」というキーワードを外すことは出来ない。グローバル化した情報と経済構造の大転換、これによる経済格差の問題、労働の規制緩和などの中で生み落とされてきた「貧困」問題。今回のシンポジウムでは「隠されてきた女性の貧困」の現実に焦点を当て、個人の問題ではなく社会の問題として押し返す力をためるためにその解決策と方向性をテーマに据えた。
◆ 女性の貧困はどのように隠されてきたか
まず、WCK代表の井上摩耶子から、自身の働き方を振り返り、ジェンダー分析を交え、シンポの主旨について説明があった。70年代高度経済成長を支えてきた性別役割分業(男は外で働き、女は内で家事・育児)は、個人の選択による働き方=自己責任であるという考え方で一般化されてきた結果、女性の経済的自立を難しくしてきたこと。結婚生活が継続される事を前提に、時代の要請とはいえ無償労働を担わされてきた事実は、労働政策の誤りであったと指摘した。
しんぐるまざあず・ふぉーらむ・京都代表の寺田まりこさんは、30年間子どもと自分を養うために、NOを言えない請け負いの仕事を強いられて来たが、「BI」があればもう少し人間らしい生活を送れたはず」と、ご自身の窮乏生活を語り、京都市「ひとり親家庭実態調査」や厚生労働省のさまざまなデータを使って、「シングルマザー」が置かれている生活実態を示し、女性の生涯にわたる多様な生き方に眼が届いていない国の政策、人権の置き去りを掘り起こされた。そして、改めて“ベーシック・インカム”(基本所得 / 以下BI)の実現に希望を託した。
◆ 「貧困」とベーシック・インカムの考え方
次に「反貧困ネットワーク京都」事務局長の舟木浩弁護士は、生活保護問題を切り口に、ネットワークの設立、経緯、取り組みについて話された。社会の隅々に追いやられ、見えにくくなっている「貧困」の実情、生活保護をめぐる裁判から、構造的に「貧困」が生み出されている実態は、複合的な問題(DV、アルコール依存、精神疾患、無年金者etc)が絡まっており、幅広い支援活動と関係機関の連携強化が必要であると訴えられ、パーソナルサポート構想を明らかにされた。
続いてシンポのメインテーマであるBIについて山森亨さん(同志社大学)から、パワーポイントを使って解説を受けた。BIが夢物語ではないことを(日本での実現はともかくとして)、先進国における家族関係社会支出の割合、家族給付の国際比較から説明し、憲法25条に触れながら、生存権の保障を欠いている現行の社会保障制度の機能不全を指摘された。「女性の人権」を求めてきたフェミニズム運動が女たちの共通課題として「家事労働に賃金を!」と訴えてきた(ダラ・コスタ著 1986年 インパクト出版会)のだが、あまねく生きとし生ける者の「基本所得」を求めてきた黒人運動(キング牧師の提唱)と、実はジェンダー平等を求めてきた女たちの運動とは地続きであったことを示唆された。
日本におけるBI導入の実現可能性について会場から質問があった。現行のシステムを変えていくには、困難ではあるが、広く「貧困」の実態を可視化させ、生存権の保障を訴えていくことが重要であるという展望を得た。知らないことを望むことは出来ないが、BIという新たな社会保障に少し希望が生まれた。
(上野美代子・WCKニュース第56号より転載)
by WCK-News
| 2010-12-01 00:00
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