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2012年公開講座報告「女性と貧困~ジェンダーの視点で当事者目線で考える」

「女性と貧困」について考える    周藤由美子

はじめに
WCKでは、4月15日に京都で反貧困ネットワーク京都と共催で公開講座「女性と貧困 ジェンダーの視点で当事者目線で考える」を開催した。赤石千衣子さん(NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事、反貧困ネットワーク副代表、東日本大震災女性支援ネットワーク世話人)、伊田久美子さん(大阪府立大学教員、女性学研究センター長)、丸山里美さん(立命館大学教員、女のおしゃべり会)の3人のシンポジストのお話をまず簡単にまとめたい。

 赤石さんのお話

● なぜ女性の貧困が見えにくいのか?
貧困問題が社会問題化したのは「ネットカフェ難民」「ワーキングプア」に関するメディアの報道であり「派遣村」だった。若い男性がネットカフェで寝泊まりして日雇い派遣で働くしかない「男性の貧困」を取り上げたものだった。しかし、様々な貧困のデータからは、「女性の貧困」の深刻さが浮かび上がる。(「女性はほぼ全年代で男性より貧困」「女性の半分以上が非正規雇用労働者」「若い女性の非正規化が激しい」「高齢女性の貧困も深刻」) 
なぜ女性の貧困は注目されなかったのか。それはこの社会の「正社員男性片働きシステム」=「女は扶養され家事育児の担い手」と大きくかかわっている。

● 若い女性の貧困 
財団法人横浜市男女共同参画推進協会が2009年4月に行った「若年女性無業者の自立支援に向けた生活状況調査」では、彼女たちの生活上の困難な体験は「職場の人間関係トラブル」「学校のいじめ」「精神科・メンタルクリニック通院」「一か月以上の服薬」「親など家族からの支配・期待が重荷」「食べ吐き、過食・拒食」「不登校」「家族からの暴力・虐待」「性被害」など。多重的に困難を抱えていて、結婚や将来の暮らし方が見通せない状態にある。しかし、仕事に不安や困難を感じながら働きたいと希望しているのだ。

彼女たちへの支援として、マイクロソフトが支援して各地で講座を開いている。横浜では「若年女性のためのガールズ編しごと準備講座」がある。彼女たちは携帯メールはできるがキーボード操作には慣れていない。講座でも最初は緊張してストレスで何度もトイレに行ったりしていた。そこでリラクゼーションや自己肯定感のワークなどをする。卒業生には「めぐカフェ(就労カフェ)」を開いて練習させている。

● シングルマザーと貧困
日本のシングルマザーの就労率は約84%で世界でも3番目に高いけれど、就労収入は平均171万円と非常に低い。手当や養育費などを含めた平均年収でも213万円で、父子家庭の年収は421万円で2倍くらいの収入がある。
2003年から国の母子家庭施策は就労支援に力をいれ、その代わりに児童扶養手当の有期化(5年で半額)をすすめた。(しんぐるまざあず・ふぉーらむなどの運動で、児童扶養手当の半減は凍結させている。)しかし、この施策は失敗した。日本のシングルマザーの就労率は国際的にも最高なのだ。もし就労支援をするなら、質の高い、正社員で、ワークライフバランスの取れる仕事に就けるような支援であるべきだった。
シングルマザーになってすぐに働かなければならないときに仕事・住宅・保育すべてをカバーできるか?そんなときにキャバクラが寮や託児所完備と宣伝してくる。一時的でもキャバクラで働こうかなと思うシングルマザーがいても不思議ではない。子どもたちとの時間を持てるという誘惑は大きい。
 大阪の幼児置き去り事件は、母親(被告)へのバッシングがすさまじかった。しかし、被告は困難な生い立ちの中で孤立していたにも関わらず、布おむつや母乳での子育てなど「よい母親」をめざしていたが、仕事・保育・住居すべてが揃ったのは夜のキャバクラ・風俗だったのだ。また、彼女はシングルマザーの支援策を受けていなかった。この事件はシングルマザーの貧困を放置した結果の、社会によるネグレクトではなかったか。
 また、シングルマザーが福祉を受けるためには「男の影」があってはならないというプレッシャーも大きい。宇治市の生活保護受給の際の誓約書のように「男がいるなら扶養してもらえ」という規範がある。これは日本だけでなく全世界的なことで、「クローゼットに男を隠しているだろう」と言われる。





◆ 伊田さんのお話
● ジェンダーバイアスのかかった調査・分析が問題
『女性たちの平成不況』の調査で、25歳時に未婚で正社員だった人とフリーターだった人のその後の結婚割合を調べている。一般に思われているのとは違って、フリーターだった人の方が結婚割合は低いという結果が出ている。女性フリーターは「さっさと結婚して働きたくない人」、「自発的に責任ある仕事につきたくない人」「結婚に逃げやすい人たち」というイメージがあるかもしれないが、それはバイアスのかかった見方であるということがわかる。
また、フリーターからの離脱が目指される場合に、男性は正社員になることを意味するが、女性は結婚してもフリーター離脱とされる。しかし、フリーター同士で結婚して夫が無職という場合もある。結婚したら主婦であるという「妄想」に基づく偏見が調査・研究のレベルで影響している。
非正規女性へのインタビューで「しんどいから結婚したい」という回答があると、「ジェンダー意識が強い」と分析されるが、これは原因と結果が逆だろう。女性の貧困がジェンダー意識の問題とされて、労働問題としてとらえられないことが問題である。

◆ 丸山さんのお話
釜ヶ崎で女性を見かけることは少ない。女性を探して歩いて、女性野宿者の民間のNPOのシェルターでスタッフをした。現在は大阪で女のおしゃべり会をやっている。

● なぜ女性のホームレスが少ないのか 
ひとつには、性別役割分業があるから。女性は低賃金、非正規労働者であることが多く、配偶者控除など、単身でいるより男性パートナーといればお得で安定しているように見える。それには貧困を恐れるが故に家から出られない女性もいるということだ。女性の経済的自立が高まれば女性の貧困はより顕在化する可能性がある。
また、生活保護だけでなく、母子福祉や売春防止法、DV防止法など女性だけが利用できる社会福祉制度がある。女性は男性より福祉施策を利用しやすくホームレスの一歩手前でとどまっている場合もある。
一方、ホームレス女性が、申請すれば生活保護を受給できる場合でも様々な理由から路上生活をしていたり、婦人保護施設の3割が空いているのに活用されないという実態もある。

◆ コメンテーターとのやり取り

● 女性の貧困の問題を男性も巻き込んで考えること
今回の公開講座は、3人の女性シンポジストの後に、2人の男性にコメントしてもらうというという構成が非常に好評だった。
 反貧困ネットワーク京都事務局長の弁護士の舟木浩さんからは、「性別役割にしばられていて男性もしんどい。自分は男らしくないというコンプレックスもあった。女性からは『踏まれた側の痛みは踏んだ側にはわからない。踏まれていると思ったら踏んでいるんだよ』と指摘されるとそうだなーと思いながら、どうしたらいいのかなーと思ってしまう」というコメントがあった。
 次に反貧困ネットワーク共同代表で日本自立生活センターの矢吹文敏さんは、「自分たち障害者は、いつも『誰のお金で生活できると思ってんだ』と言われている。女性も障害者も『私の方が差別されている』とお互いに差別されている競争をさせられている。自分が男だと思おうとしても、男でも女でもない。子どもだ。60歳近くになって結婚したけれど、一人前の男になったのではなくいきなり高齢者になった。これで女性を差別したことになっているのか?」と、ひょうひょうとした語り口で話された。
 これに対して、次のようにシンポジストとのやり取りがあった。
赤石さんは「女性の貧困の話をすると、貧困運動をやっている男性が『自分が責められている』という反応をすることがよくある。男性を責めているのではなくて、性別役割分業の構造を変えないと貧困の解決ができないという視点を一緒に持とうよ、ということ。だけど、なかなか共有されにくい。一方で、おかしいじゃないかという態度もある。集会を企画すると若い女性は受付で、パネリストは男ばかりだったり。性別役割分業がすべてに浸透している」。
舟木さんから「来なければならない人こそ来ないという問題がある。次の一歩は何なんだろう?」という問いかけに対して、赤石さんから「たとえばイベント保育の担当を男性でやるとか、小ちゃなチャレンジから始めたらどうか」という提案があった。

● 働くことをめぐって
会場とのやり取りの後、丸山さんからは働くことをめぐって、次のような発言があった。「女性の働き方を男性並みにすればいいじゃないかと言われるが、誰かに支えてもらわないとやれない男性の働き方自体を変えていかないといけないと思う。労働の状況は厳しい。若い女性の間では『働けない』『働くのが怖い』『働きたくない』というのがある。ホームレス女性の活動をしているいちむらさんが、ある集会で『働きたくない』と言って物議をかもしたことがあった。」
それに対して、矢吹さんから「働くことには恐怖感とあこがれ、挫折感、失望感がある。働く=賃金という価値観だと、障害者の大半は脱落する。かろうじて作業所で働いてエライわねと言われて、親も家族も本人も満足している。しかし、『もっと生き方いっぱいあるのになあ。作業所休んでデモした方が楽しいのになあ』と思う。『矢吹さんはいてくれるだけでいいですよ。』と言われるが、それだけでは満足できない。それより賃金がほしい。同情よりも金をくれと言いたい。」というコメントがあった。

「女性と貧困」に関して様々な視点からのアプローチがあり、時間があればもっとそれぞれのテーマをじっくり考えたいと思う、内容盛りだくさんの公開講座だった。

◆ うてつあきこさん講演会
この特集をまとめるのに時間がかかっているうちに、6月24日にメセナ枚方で、うてつあきこさんの講演会「支援の現場から見えること ~つながりゆるりと~」があった。
うてつさんは<自立生活サポートセンター・もやい>の活動にボランティアとして参加、現在は単身女性の更生施設の生活相談員として勤務している方で、女性と貧困の現場に直接関わった体験からのお話が聞けた。その内容を報告したい。
ホームレス状態とは、路上生活にかぎらず、ネットカフェ、居候状態、社会的入院、シェルター、宿泊所などの決まった住所を持たない状態のことを言う。ホームレスがどれくらいいるのかといえば、H24年1月に実施された目視によるホームレス全国調査(厚生労働省)によれば男性8933名。女性304名。不明334名。
女性の安心安全が守られていない社会において、ホームレスになると性暴力をはじめとするあらゆる暴力の危機がある。そのため女性はできるだけ「屋根のある状態」(DVや虐待がある家庭、居候、性風俗産業)を確保するということになる。その結果、女性のホームレスの数が少なく、「女性のホームレスっているの?」という認識になる。女性の貧困は見えにくい。
女性がホームレス状態になるきっかけは、「DV、貧困、虐待、低学歴」「アルコール、薬物などの依存症」「離婚」「セクハラ・パワハラ」「病気・借金・リストラ」「性風俗産業」「施設入所・入院」など、段階を踏んで少しずつホームレス状態になっていく。共通することは、自尊心が奪われていることと、関係性の貧困である。
彼女たちに対して働けるように支援することは難しい。働く以前に人間として満たされていないと。性暴力や大きなトラウマになるような経験を何度も経験していると、自分の存在や生きること自体への欲求、人間としての尊厳が破壊される(『性暴力その後を生きる』 中島幸子より)。支援をしていても、非常に関係をつくるのが難しいという現実がある。

感 想 
これまで直感的に女性の貧困と性暴力は関係していると感じていたが、うてつさんがその点を明確に指摘されたことで非常に納得できた。女性の貧困を理解するためにはジェンダーの視点が不可欠であると思うし、性暴力やDVなどのトラウマに対する理解と心理的回復のための長期的な支援が必要なのではないか。4月のWCKの公開講座でも感じたのだが、「女性と貧困」の問題に、フェミニストカウンセリングが役に立つことはたくさんあるのではないかと思う。
by WCK-News | 2012-07-01 00:00 | WCK公開講座報告

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