人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ウィメンズカウンセリング京都        ☆スタッフblog

wcknews.exblog.jp
ブログトップ

2013年9月公開講座報告「性暴力と刑事司法」報告

2013年9月27日 WCK公開講座
「性暴力と刑事司法―性暴力加害者の責任を問う!」

 2013年9月29日のシンポジウムでは、性暴力にかかわる刑事司法において、加害者の責任が追及されない現状を問うことをテーマに、「性暴力加害者捜査の問題点」を京都大学アジア研究教育ユニット研究員の牧野雅子さんから、そして「性暴力裁判の問題点」を、弁護士であり立命館大学法科大学院教員の吉田容子さんから話を聞いた。

■ 加害者捜査には重大な問題がある
 牧野さんは、日本の裁判では警察や検察の証拠が重視されること、警察が被害当事者に与える影響が非常に大きいことに着目し、「捜査において加害が適切に調べられ、裁かれているのか」という問いを立て、直接調査した連続強姦事件の捜査の問題点を述べた。それは、夜間一人歩きをしている見ず知らずの女性を狙う、凶器を使用するといった、「加害行為の悪質さが徹底して追及される」「被害者の『落ち度』等は問題にされる余地がない」はずの事件であり、調査は裁判傍聴、事件記録の閲覧、加害者に対する200回を超えるインタヴュー、犯人の日記の分析によって行われた。
 それによると、犯罪の立件においては非常に重要で、本人の語りによって導き出されるべき犯行動機が、性犯罪では「性欲を満たすための犯行」という前提の先取りがあり、それを立証するための証拠品だけを捜索、本人に性的欲求不満があったことを供述させる。取調官個人の性暴力観、ジェンダー観といった個人的な問題にとどまらず、捜査参考書に書かれている「性犯罪の動機は性欲」という考え、それに基づいた取調項目に従って組織的に供述調書が組み立てられていく。「供述調書は供述者が自由に語った記録ではない」のだ。牧野さんのインタヴュー相手は「あの衝動は性欲なんかじゃありませんよ」と語っていたという。
 「性欲本能説」を前提とした捜査では、その説に不都合な部分に悪質性があっても供述調書には書かれない。性犯罪の重大性、加害性の追求は不十分になる。「性欲」の発露にかかわったとして被害者に責任を負わせるのだ。「未遂」に終わった事件では、被害者の抵抗はなかったことにされ、加害者の「情け心」による自主的な中止、との供述調書が作成された。犯罪事実の供述を得ることが優先される取り調べでは、取調官が加害者(被疑者)に共感する、加害性を矮小化する手法が取られるが、それ自体問題視されないことも述べられた。その結果、裁判で加害者が思っていた以上の量刑が出た場合、その怒りが被害者や社会に向けられるリスクもあるという。そして、このような手法では、犯罪行為に及んだ本当の理由が全く明らかにされないために、再犯防止対策に支障が生じるのだ。こんな捜査自体がほとんど犯罪的ではないか!

■ 強姦罪をめぐる裁判の問題点
 次に吉田さんが、「暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、三年以上の有期懲役に処する。(以下省略)」という刑法の強姦罪の定義を示し、そのどこにも記されていないにもかかわらず、裁判では事実上「(犯行を)著しく困難とする抵抗」がその要件になってしまっている実態を報告した。また、被害者が女性に限定されていること、対象行為が性器結合のみとしていることと併せて考えると、強姦罪は戦後、個人的法益(性的自由・自己決定権)の侵害とされているが、「貞操」が実質的な保護法益(女性には貞操を守る義務があり、強度の暴行脅迫に屈しない場合に保護をする)になっているという根本的な問題点について指摘があった。その考え方が、裁判において「性行為にはそもそもある程度の『有形力の行使』が伴う(但し、何が『通常伴うある程度の有形力』なのかの説明はない)。有形力の行使があっても、性的自由・性的自己決定権の侵害がなければ犯罪は成立しない」「合意でないなら抵抗するはずだ。しかも性的自由・性的自己決定権は重要だから、それを守るためには『死に物狂いで抵抗』するはずだ。そのような抵抗が困難なほどの強い暴行脅迫があるなら別だが」というに筋になっている。「合意に基づかない性行為における有形力の行使」か否かのメルクマールが、「相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度の暴行脅迫」だというのである。ものすごいジェンダーバイアスである。
 そして、客観的証拠がない場合が多く、最終的には加害者と被害者のどちらの供述内容の信用性が高いかで判断される事実認定の判断基準にも重大な問題がある。刑事裁判においては、「通常時」の「一般人(自由にYES、NOを言う自由を有する)」の経験則、つまり犯罪が起こっている渦中の当事者には当てはめられないはずの経験則が当てはめられているのである。吉田さんは、「法律家は性犯罪加害者や被害者の心理・行動についての専門家ではない」「性犯罪の認定には、社会学・心理学等の専門的知見、複数の専門家による帰納、従来の被害者像・加害者像の転換が必要だ」と強調した。

 コーディネーターの周藤は、ジェンダーの視点での性暴力被害者支援のネットワーク構築の必要性、フェミニストカウンセリング、フェミニストアドヴォケーターの役割、そして、性暴力被害者の心理的回復のために、加害者の責任を明確化すること、法的手段をどう考えるかについて問題提起した。刑事司法の現状はジェンダーバイアスに満ちている。大きな課題に直面したシンポジウムだった。
(小松 明子 WCKニュース第69号より転載)
by WCK-News | 2014-01-31 00:00 | WCK公開講座報告

フェミニズムの視点にたった女性のためのカウンセリングルーム、ウィメンズカウンセリング京都のスタッフブログです。最新の講座情報やスタッフの雑感などをお届けしています!


by WCK-News